第一三共株式会社 ディスカバリー第二研究所第一グループ

松村 護

2017年
生命理学科卒業
2022年
生命理学専攻博士後期課程修了(博士(理学))

高校生の頃、iPS細胞に触発され研究職への憧れを抱いた。化学が好きだったが、大学で生命科学の奥深さに魅せられ、生命理学科を博士課程まで進学。博士号取得後は、専門性を活かせる製薬企業に入社した。現在は、自分が関わった分子が薬として世に出る日を夢見て、がん免疫治療薬の研究に取り組んでいる。

生物学には様々な学問の要素が入っている

私は大分県の田舎で育ちました。用水路にはタニシがたくさんいて、遊んでいるとヒルに咬まれるようなところです。ちょうど高校生の頃、iPS細胞に関する研究でのノーベル賞受賞のニュースや特番を見て研究職に憧れました。高校では物理選択でしたし、一番好きな科目は化学だったのですが、生命科学の奥深さにも興味を持ちはじめていたため、入学後に学科を選べる理学部に入りました。面白いと思うことには集中する性格なのですが、1年生の時に受講した生物学基礎の講義で、生物学には化学や物理学など様々な学問の要素が入っていることや、まだまだ未知の領域に挑戦できそうなことを知り、生命理学科を選びました。

研究者志望の人が多かった学年

生命理学科では、最先端の研究論文を少人数で輪読する基礎生物学演習という授業があり、担当の先生が質問に全部答えてくれたり、その派生の話題で一緒に議論してくれたりと、研究の現場感を味わう良い機会になりました。研究者志望の同期が多かった学年でもあり、周囲からアカデミックな刺激を受けるうちに、博士課程まで進学してみたいと思うようになりました。

研究室は、演習の担当だった先生のところを選び、ここで修士の頃から博士課程にかけて携わることになったのが、「植物の葉に機械刺激を負荷するだけで免疫応答が活性化するか」という植物免疫に関するテーマでした。例えば雨は、病原菌感染の原因になることが知られています。植物の葉にはトライコームと呼ばれる毛が生えていて、これが雨などの機械刺激を感知して免疫応答を活性化し、感染を予防していることを明らかにしました。この研究に携わる中で、研究室の先生方の理解もあって多数の学会で発表する機会をいただき、多くの研究者と議論を行う経験を通して、研究者の卵として大きく成長することができたと思っています。

モノづくりに関わる仕事をしたい

生命科学の最先端の研究に関わった経験を活かした進路を考えたときに、成果がモノとして残るような仕事につきたいと思いました。もともと化学好きだったことや研究室の先生のアドバイスもあり、製薬企業への就職を目指すことにしました。D2の8月に「企業と博士人材の交流会」という大学主催の恒例イベントがあり、自分の研究をプレゼンしたところ、製薬企業の第一三共の方が私の研究内容に興味を持ってくれました。これがきっかけとなって第一三共の面接に進みましたが、面接官の質問の鋭さに驚くと共に、研究データに関する議論を大切にする良い会社だなと感じ、内定をいただくと同時に入社を決意しました。

 

がん免疫治療薬の開発を目指して

現在は、東海道新幹線の車窓からもよく見える品川研究開発センターで、人がもともと持っている免疫系の細胞にはたらきかけてがんを克服する薬を開発する仕事に携わっています。様々な生命・生理現象、そして多様なモダリティーを用いた医薬候補分子の科学に接する機会があり、これまでに生命理学科で学んだ知識や経験がとても活かされています。ひとつの薬を開発するには、いくつものステップと10~15年単位の時間がかかるのですが、自分が関わった分子が薬として世に出る日を夢見て、日々研究に取り組んでいます。

製薬会社で研究開発を主導するのは、化学、生物学、薬学、医学など多様なバックグラウンドの博士号を持った社員たちです。生命理学の博士号取得者のキャリアパスのひとつとして、創薬は魅力的な分野だと思います。


取材・構成・撮影/松林 嘉克