協和キリン株式会社 研究開発本部 トランスレーショナルリサーチユニット

髙市 大輔

2018年
生命理学科卒業
2020年
生命理学専攻博士前期課程修了

中学生の頃はプログラミングに熱中した。数学や宇宙にも憧れたが、大学1年生の講義で生命の未知なる世界に魅せられ、探究心をくすぐられて生命理学科を選択。研究室ではプログラミングの経験が神経行動学の研究で大きく活かされた。修士卒業後は、製薬企業でデータサイエンスを駆使した創薬研究開発の解析に従事しつつ、社会人ドクターの取得を目指して、名古屋大学での研究も再開している。

プログラミングに夢中だった少年

名古屋の近郊の日進市で育ちました。都会の近くとはいえ、裏山があって自然には恵まれたところです。自然の中で遊ぶことが好きだった一方で、中学の頃、夢中になったのはプログラミングでした。当時大好きだったゲームを自分でつくってみたいと思ったのです。Javaという言語を知り、図書館で調べてコードを書いているうちに、プログラミングの面白さに魅了されました。これが将来役立つとは思ってもみませんでしたけれども。高校では、物理と化学を選択していましたし、プログラミングと関係する数学の確率論なども好きでした。高校2年生の頃、授業を休講にしてみんなで観測した金環日食にも魅了され、宇宙や天体もいいなと思ったりもしたので、大学は後から専門を決められる名古屋大学理学部を選びました。

大学1年生の講義で生命科学に目覚めた

理学部1年生は全学教育を受けるのですが、生物学基礎の講義でそれまで知らなかった生命科学の謎解きの面白さに魅了されました。高校1年生の時に少しだけ生物学を学んではいたのですが、教科書にあった生物学は覚えることばかりで興味が薄かったのとは対照的に、生命科学には今でも未知の領域が多く、それを化学や物理、時には数学までも投入して解き明かしていく研究者の姿が心に刺さりました。生物学実習でも自分の手を動かして得られた結果から考察する楽しさを知り、探究心をくすぐられて、生命理学科へ進むことにしました。

研究室配属のとき、ショウジョウバエの行動を研究しているラボで、ちょうどオスのメスに対する追跡行動を自動で記録する実験系を立ち上げようとしていることを知りました。当時、神経生理学や動物行動学に興味があり、それらを自分の手で解析できそうな予感がして挑戦してみることにしました。これまで培ってきたプログラミングの知識を活かして、ハエの足の動きを読み取るセンサーからの出力を自動で記録する装置をつくり、卒論で発表しました。さらに修士課程ではメスのフェロモンを与えたり他のオスの羽音を聞かせたりすることで、オスの追跡行動の変化を詳しく解析しました。研究成果は多くの人に興味を持ってもらい、学会発表ではポスター賞を頂くことができました。

 

データサイエンスで社会に貢献したい

修士課程に在学していた頃、ビッグデータやデータサイエンスなどの言葉が社会に浸透しつつありました。自分も、プログラミングの知識や生命理学科で学んだ研究の経験を活かして社会に貢献したいと考えるようになりました。創薬をはじめ、食品や化学など、モノづくりに関わる仕事に関わりたいと思っていたところ、協和キリンで創薬とデータサイエンスとを結びつける人材を求めていたようで、自分の思い描く将来像とうまくマッチングして入社を決意しました。

協和キリンはバイオテクノロジーや抗体医薬を強みとする製薬企業です。私は臨床試験におけるバイオマーカーの測定をデザインし、そこから得られたデータを評価・解析することで、開発中の薬が実際にヒトでどのように作用するのかを検証したり、より薬効が期待できる集団を特定したりするなど、サイエンスに基づいて開発中の薬の価値を最大化するプロセスに携わっています。また、臨床試験データをもとに数理モデルを開発し、それを用いてコンピューター上で臨床試験をシミュレートする試みも進めており、予測と実証をうまく組み合わせることで、新薬開発のスピードや成功確率を上げる取り組みを進めています。バイオマーカーとデータサイエンスを駆使することで、少しでも早く、そしてより多くの患者さんに薬を届けて笑顔にすることができるよう、日々挑戦し続けています。

社会人ドクターの取得を目指して

仕事柄、海外の研究者と打ち合わせする機会も多いのですが、やはり博士号を持っている方がプロフェッショナルとして一目置かれる雰囲気を感じる時があります。ちょうど名古屋大学で博士後期課程社会人特別選抜(社会人ドクター)制度が始まり、会社も後押ししてくれましたので、週末や夏季休暇を利用して大学に通い、修士課程の頃に手がけていたショウジョウバエの追跡行動解析の続きを進めさせてもらっています。2年くらいで論文をまとめ、博士号を取得することを目指しています。

思い返せば、生命理学科では本当に自由に実験をさせてもらいましたし、教授の先生ともサイエンスの議論を密にさせてもらいました。こうした生命理学科での貴重な経験や挑戦が、製薬企業で働く今の私を形作っているといっても過言ではありません。後輩の皆さんにはぜひ、未知の領域が多く残されている生命科学の面白さに少しでも興味を持っていただきたいですし、そしてその興味の種をこの生命理学科で自由闊達に育ててほしいなと思います。


取材・構成・撮影/松林 嘉克