資生堂 グローバルブランド開発センター

小原 真帆

2018年
生命理学科卒業
2020年
生命理学専攻博士前期課程修了

中学高校時代のホームステイ体験から異文化に興味を持ち、大学では1年間のイギリス留学を経験した。実験を通して見る生物の面白さに魅力を感じて生命理学科に進学し、修士課程まで学んだ。大学で学んだ知識を使いながら世界とつながる仕事に携わりたいという思いから、グローバルに展開する化粧品会社に入社。日焼け止めの開発部門で、マーケティングと研究開発を橋渡しする役割を担っている。

価値観を変えた海外体験

静岡県の中高一貫の女子校に通っていました。私立だったこともあり、中学2年の時にアメリカ研修、中学3年の修学旅行ではシドニーでホームステイをする機会がありました。未知の世界の広がりを感じ、ふるさとの田舎に留まっていたくないなと海外に関心を持つきっかけになりました。高校では生物選択でしたが、有機化学も面白いと感じていて、将来は4年制薬学部で研究してみたいなと考えつつも迷っていた高校3年生の頃、生命理学科在学中の先輩が高校に教育実習に来られて、理学部生命理学科ではDNAやタンパク質などを扱った研究・実験ができることを知りました。なんだかおもしろそうだと感じ、化学科か生命理学科か迷いながら、入学後に学科を決められる名古屋大学の理学部を目指すことにしました。

試行錯誤の過程が楽しい生命科学

大学に入ってみると、大学の化学は物理に近くなることに衝撃を受けた一方で、生物は実験から真実を追究する実験科学の要素が強くなることに魅力を感じました。生命理学科に進むことにしましたが、動物の行動実験や組織切片の観察など、手を動かす実験実習が特に面白かったですね。3年生の前期まで学んだ後、全学の交換留学制度を使ってイギリスのリーズ大学に1年間留学することにしました。海外で生活してみることが、長年の夢だったのです。現地では生命理学に関連するような遺伝学や免疫学、あとは興味本位でドイツ語や栄養学の授業を取りました。見知らぬ土地で生き抜く度胸と、人それぞれ当たり前は違うという感覚が身についた気がします。

帰国後、同期から1年遅れで研究室配属になり、記憶の研究をしているラボに所属することにしました。扱っている記憶はハエの失恋記憶ということで、ハエにも記憶があり、更にそのメカニズムは未解明なことに興味を持ったからです。この失恋記憶が、短期記憶から長期記憶になるメカニズムを解明するための実験系を立ち上げるのがテーマでした。修士課程まで続けた研究テーマでしたが、なかなかうまくいかなかったけれども試行錯誤の過程が楽しかったですね。また、生命理学科は先生との距離が近くて雰囲気がとても良かった思い出があります。各分野の精鋭のすごい先生方のはずなのに親しみやすくて、そのギャップが意外でした。

世界とつながる仕事に携わりたい

私はそれほど研究指向が強かったわけではないので。研究職以外も就職の選択肢に入れていました。ただ中途キャリアで文系職から研究職に変わるのは現実的ではないと知ってからは、せっかく修士まで進学しているし、研究職を目指すことにしました。留学中に、イギリスでは様々な年代の女性がおしゃれを楽しみ生き生きとしている様子に感銘を受け、合わせて日本では年齢を過度に意識したり、若さこそが華という雰囲気があることに気づきました。こうしたジェンダーに関して問題意識を感じ始めていた矢先、webでふと見つけた資生堂のlove the differenceというキャッチコピーが私の心に刺さりました。化粧品業界で、年齢を重ねることをポジティブに捉える社会を作りたいと熱意を伝え、採用が決まりました。

 

理学的な論理思考でマーケティングと研究開発をつなぐ

今の仕事は、資生堂の日焼け止めブランド、アネッサの商品開発です。日焼け止めには研究知見に基づいた様々な最新技術が搭載されていて、それらをお客様に分かりやすく・正しく伝えられるように取り組むのが主な仕事です。例えば、製品のパッケージには、搭載されている様々な機能が書いてあるのですが、その1つ1つが科学的根拠に基づいた情報として正しく発信されるよう責任を持っています。また、マーケティングから出てきた新製品への要望を科学的に整理して、どんな技術や成分を搭載するのかを検討しています。マーケティングと研究開発をつなぐ役割ですね。生命理学科で学んだ知識と、理学的な論理思考が役に立っています。太陽のもとでお客様が生き生きと暮らすことをサポートできるような商品を開発することが今の目標です。


取材・構成・撮影/松林 嘉克