サントリー グローバルイノベーションセンター株式会社
岡田 絵美
- 2017年
- 生命理学科(G30国際プログラム)卒業
- 2020年
- 生命理学専攻博士前期課程修了
17才までをアメリカで過ごした。将来は日本で働くことを決意して、生命理学科G30国際プログラムへ入学。実習で様々な生き物に触れる中で植物科学に興味を持ち、修士課程からは日本人学生のコースで研究の進め方を学んだ。基礎研究の経験を活かそうと植物原料を扱う飲料メーカーに入社。環境条件や栽培方法が原料の品質にどう影響しているかを解析し、より品質の高い作物を安定的に作る技術開発を行っている。
日本生まれのアメリカ育ち
幼い頃は愛知県で育ったのですが、父親の仕事の都合で5才から17才までアメリカのオハイオ州で過ごしました。土曜日だけ日本人学校に通いましたが、平日は現地の学校で授業を受けたので、英語はネイティブです。アメリカでは理科は好きな科目を3つくらい選択するシステムになっているのですが、私は化学と生物に加えて解剖学を勉強しました。解剖学という科目は日本の高校ではありませんが、アメリカでは選択科目がたくさんあります。授業の中では生物が好きで、酵素などミクロな分子が大きな生物を動かしているしくみに興味を持ちました。
私は将来は日系企業で働きたいと思っていたのですが、アメリカで働くよりは日本で就職した方がむしろ英語を武器にできると考えていました。また、日本の製品や文化を海外に広めたいという思いもありました。そこで、日本の大学を目指すことにしたのですが、生命理学科のG30国際プログラムは、私のような帰国子女には魅力的なシステムでした。
幅広い生命科学の中から自分の興味分野を探すことができる
入学してみると生物系の同期は10人くらいで、いつも一緒に授業を受けるので、マレーシア、シンガポール、タイ、台湾、モンゴル、オランダなど、いろんな国の人たちと友達になりました。生命理学科は、実験実習がとても充実していて実験科学の面白さを再認識しました。研究室配属の時期になって、学部の一般コースで希望者が多かったというラボを見学したりするうちに、植物の研究に惹かれるようになりました。
植物には、動けないからこそ発達させたメカニズムがあって、病気から身を守るしくみなど、動物とはまた違った面白さがあります。卒論から修士まで携わったのは、サリチル酸という耐病性や環境ストレス耐性に関わる植物ホルモンがどのようなきっかけで合成されるかというテーマで、歴史が長いのに意外と分かっていないことも多くて、未知の世界に踏み込んでいく感覚がとても楽しかったです。M1の時には学会発表する機会にも恵まれました。
飲料メーカーで基礎研究の経験を活かす
就職は、自分たちの生活に近い必需品をつくるメーカーに魅力を感じつつ、理学部で学んだ基礎研究の経験も活かせる環境で働きたいと思いました。サントリーは、様々な飲料の製造で知られていますが、その主要な原料は植物であり、その他には青いバラの研究開発のように、飲料以外にもサイエンスしているところがあって、自分の経験が活かせる可能性を感じました。
環境条件や栽培方法が味に与える影響を探る
現在、私が所属するチームでは、飲料やお酒の原料となる植物の研究開発に取り組んでいます。植物の生育を左右する環境条件や栽培方法などの様々な要因が原料の品質にどう影響しているかを分子生物学的手法も駆使してメカニズムから解明し、特定の成分量を増やすなどして、より品質の高い作物を安定的に作る技術開発を行っています。分析には、液体クロマトグラフや定量PCRなど、学生時代に慣れ親しんだ機器を使います。環境の違う条件で栽培された原料植物が、どう最終的な飲料の味を変化させるのかを考える作業は難しい点も多いですが、やりがいのある仕事です。
生命理学科は動物や植物を対象としたミクロな研究に加えて臨海実験所のようなフィールド研究まであって、幅広い生物学に触れることができるので、自分の興味分野を探すことができました。生物って、誰でも知ってるものなのに、いざ対峙してみると奥深くて未知の部分がとても多いところが魅力です。
取材・構成・撮影/松林 嘉克