名古屋大学 大学院理学研究科 生命理学領域 助教

山田 萌恵

2014年
生命理学科卒業
2019年
生命理学専攻博士後期課程修了(博士(理学))

大学院に進学するまでは、自分が研究者になるとは全く考えていなかった。しかし、実験の積み重ねを通じて生命の真理を紐解いていく研究生活は、想像していたよりずっと刺激的だった。大学院生時代には研究に没頭し、修士課程の時に苦労して作った変異体の細胞を顕微鏡で観察した時の美しい表現型に魅せられて博士課程へ進学した。自由に興味を広げていける雰囲気の中で研究者の道に進むことを決意し、現在は植物特有の細胞分裂に必要な細胞板の形成機構を探っている。

子供の頃、顕微鏡で見たミクロの世界に魅せられた

電車や車よりは生き物に興味がある子供でした。小学生の頃、図鑑の表紙になるくらいの大きくて立派なカブトムシを育ててみたくて、世話をしていたこともあります。顕微鏡の魅力を初めて知ったのも小学生の頃で、夏休みにいとこが持っていた顕微鏡で花粉を見てその美しさにとても感動しました。これをきっかけに目では見えないミクロの世界に憧れるようになりました。顕微鏡を使って目では見えない世界を覗き見ることの面白さは、今でも研究意欲を掻き立てる原動力です。高校3年の頃、遺伝子やタンパク質といったキーワードに惹かれたのと、生命理学科出身だった担任の先生の影響で、名古屋大学理学部を志望しました。

刺激的だった生命理学科での学生生活

分属の時は、最新の顕微鏡を使った研究に憧れて、生命理学科を選びました。同級生に賢くてカリスマ性のある人が多かった学年で、一緒にいろいろな授業や実習に参加して、とても充実した学部時代を過ごしました。生物の授業だけでなくプログラミングや統計の授業もカリキュラムに組み込まれていたり、頻繁に他大学の先生を招いた集中講義が開催されたりと、生命理学科での学びの幅は広かったと思います。研究室配属では、顕微鏡を駆使して細胞分裂の仕組みを研究していたラボを選びました。

 

顕微鏡で見た感動の瞬間

修士課程の頃はコケ植物を使って細胞内の物流システムである細胞内輸送の研究をしていました。動物では細胞内輸送が機能しなくなると様々な疾患が引き起こされます。しかし、植物では輸送システムそのものの理解が不十分だったため、まずはシステムを理解することを目的として研究していました。相同組換えという手法を使って、狙いを定めていたキネシンという遺伝子を4個とも破壊する実験を進めていたのですが、いま考えてもよく頑張ったなと思うくらい当時は苦労しました。ようやくできた4重変異体の細胞を顕微鏡で見たとき、核の位置がおかしくなっていることにひと目で気がつきました。これほどはっきりとした変化が現われるとは予想していなかったのと、長い苦労が報われたのとで、心揺さぶられた瞬間でした。こういった心揺さぶられる瞬間が他にも何度かあり、研究の醍醐味をもっと味わいたくて、博士課程へ進むことにしました。

アカデミアの魅力

実は博士課程へ進んだのも、研究者の道に入ったのも、最初から目指していたわけではありません。大学で優秀な仲間や情熱溢れる教員に恵まれて、今の自分があると思っています。現在は、植物の細胞分裂に特有な細胞板の形成機構を研究しています。細胞板は分裂しようとする娘核の間にできますが、なぜ真ん中に分子を集められるのか不思議ですよね。中学の教科書に載るような有名な構造物ですが、意外と分かっていないことは多いです。研究費の獲得や論文の査読などシビアな面もありますが、興味の向くまま自分の想像を実験で確かめながら謎解きを楽しめるのは、研究者という仕事の魅力です。このワクワク感を後輩になる学生にもぜひ味わって欲しいと思います。


取材・構成・撮影/松林 嘉克