日本経済新聞社 名古屋支社編集グループ記者
堀尾 宗正
- 2018年
- 生命理学科卒業
- 2020年
- 生命理学専攻博士前期課程修了
覚えることよりも考えることが好きだった。物理選択で入学したが、学部1年生の授業で、身近なところに多くの謎が残されている生物学に好奇心を刺激されて生命理学科に進学。修士課程まで、植物の病害抵抗性と光環境の関係を研究した。国内外で学会や成果発表の機会を重ねる中で、最先端の情報や専門的な内容を正確かつ分かりやすく社会に伝えることの重要性を実感し、新聞記者の道に進んだ。様々な情報が溢れる現代社会で、読者に信頼され最後に選ばれる記事を発信することを目指し、科学が支えてきた産業の動きを日々追いかけている。
生物学は「考える」学問
自然豊かな三河で生まれ、尾張で育ちました。小さい頃から、覚えるよりも考える方が好きで、パズルを解くような楽しさがある数学や物理などの科目に興味がありました。しかし、大学受験の頃になってもどの学問分野を専門にするか決めきれず、学科選択までに1年間の猶予がある名古屋大学理学部に進学することにしました。入学当初は数学科や物理学科に漠然とした関心があったのですが、学部1年生の授業で生物学との思いがけない出会いがありました。生物学基礎という授業には高校で物理選択だった人向けのコースがあり、生命理学科の教授たちがオムニバス形式で生物学の最先端の研究を分かりやすく話してくれました。その中で、生き物の世界には普段何気なく目にしている身近な現象にも、驚くほど多くの謎が残されていること、そして生物学は、さまざまな実験データをもとに生き物のしくみを「考え」、謎を解き明かしていく学問であることに強く惹かれました。その授業を担当した先生自身も高校では物理を選択していたことに親近感を覚え、自分も生物学を楽しめそうだと感じて、生命理学科を選びました。
研究成果を社会へつなげたい
生命理学科では、微生物から植物、昆虫、ほ乳類まで様々な生き物を対象に研究が進められていたのですが、特に興味を持ったのは、自然界での植物と微生物のせめぎ合いでした。病原菌から身を守るために植物が進化させた巧妙な仕組みや、それを突破しようとする微生物との攻防は、終わりのない知恵比べのようです。植物の病害耐性は農業上の重要な課題であり、基礎研究が社会に直接貢献できる可能性があることにも魅力を感じました。天候不順が続くと病害被害が多くなることが経験的によく知られていて、そこには複雑な要因が絡むと考えられているのですが、私は光の強弱が病害抵抗性に関わる特定のタンパク質の活性に与える影響について、修士課程まで研究を行いました。その過程で、国内外の学会で研究成果を発表する機会に何度か恵まれたのですが、発表の経験を重ねる中で、ユニークで面白い研究成果がたくさんあることに驚きました。その半面、それらはほとんど社会に知られていない状況に、歯がゆさも感じました。そこで専門的な情報を分かりやすく社会に伝えることの重要性と難しさを実感するようになりました。
「伝える」ことの面白さ
修士1年の冬、日本経済新聞社が科学技術記者コースのインターンを募集していることを知り、興味を惹かれて応募したことが、新聞記者という仕事を意識するきっかけになりました。自分の専門ではないテーマを与えられ、それを取材して理解し、平易かつ正確な記事にするという一連の仕事を、プロの記者たちの指導を受けながら体験しました。研究の過程で自分が意識してきた「伝える」という作業の面白さと奥深さを、改めて実感した貴重な経験でした。実験や考察、議論を経て学会や論文の形で発信する研究活動と、記者の仕事には似た部分があるとも感じました。

この縁がきっかけで日本経済新聞社に入社し、科学技術が支える産業の動きを取材して記事にする日々を送っています。初任地は東京の商品部で、エネルギーや原材料などの商品市況を通して経済の動きを伝える仕事に携わりました。商品の値動きには世界情勢や需給、企業活動などさまざまな要因が複雑に絡み合っており、その背景を読み解くことに面白さを感じました。その後の神戸支社では、兵庫県全域の経済ニュースを日々取材する一方、関心を持ったテーマについては背景まで丁寧に取材し、特集記事として発信しました。いくつかの記事は社内表彰を受け、記者として大きな自信につながりました。現在は名古屋支社の自動車チームで、トヨタ自動車をはじめとする自動車産業を取り巻く新たな課題や変化を取材しています。
信頼できる記事の価値
最近は新聞を紙で読まない人が増えています。しかし、多くの人がインターネットを通じて日々さまざまな記事に触れています。情報があふれる時代だからこそ、綿密な取材に基づいた信頼できる記事の価値は、ますます高まっていると感じています。読者にも取材先にも信頼されることをモットーに、確かな情報を分かりやすく社会へ発信していきたいと思っています。
取材・構成・撮影/松林 嘉克

