味の素株式会社 バイオ・ファイン研究所
毛利 瑞穂
- 2020
- 生命理学科卒業
- 2022
- 生命理学専攻博士前期課程修了
中学の解剖の授業で、マウスの体の中が図鑑で見た通りだったことに感動した。実験科学としての生物の魅力に惹かれて生命理学科に進学し、修士課程では神経と老化の意外な関係を突き止めた。大学で学んだ知識を、アウトプットが社会貢献に直結する研究に活かしたいという思いから、アミノ酸発酵で世界をリードする会社に入社。アミノ酸生産菌の育種改良や、ラボスケールを工場スケールで再現するための技術開発に携わっている。
都会の中の自然
横浜市の中心部から少し南の、今でも所々に自然が残っている地域で生まれ育ちました。近所の公園でザリガニを釣ったり、家でメダカを飼ったりしていたので、生き物はいつも身近な存在でした。そのせいか、家にあった生き物の図鑑もよく眺めていました。中学校でマウスの解剖の授業があった時に、ドン引きしているクラスメイトを横目に、私は動物の体の中が図鑑で見た通りだということに感動した記憶があります。高校のSSHでは、優占種が水質によって変化する藻類の研究チームに加わり、タイまで海外調査に行ったこともありました。ところが、進学先の選択肢が広がるだろうという思惑で選択科目に物理を選んでしまい、結局あまり好きになれず受験に失敗。浪人中に、初心に帰って予備校で生物選択に切り替えるという荒技で受験を突破しました。選んだ学部が理学部だったのは、単純に生物と化学、つまり理科が好きだったからです。
国際色豊かな研究環境
私のような迷える学生にとっては、分属制度で進路選択までに1年間の猶予をもらえるのはありがたいことでした。大学での化学の授業は苦手な物理に近くなる一方で、受験では暗記科目だった生物は大好きな実験中心の学問だということに気がつき、生命理学科を志望しました。3年生の授業で、神経が動物の行動の根幹を決めていること、そして線虫では細胞系譜が全部分かっていて、神経基盤も詳しく調べられていることを知りました。ずっと動物に興味があったので、研究室では神経の実験がしたいなと思っていた頃、配属の説明会で、線虫を使って飢餓状態での行動変化のしくみを調べている先生に出会いました。その研究室は国際色豊かで、先生は韓国人、学生にはモンゴル人やインドネシア人がいて、何だか新しい世界に飛び込めそうな予感がしました。線虫は飢餓になるとエサを探すのですが、卒業研究では、その行動に変化が現われる変異体の探索実験を行ないました。
予想外の実験結果に興奮
その先生が急に帰国することになってしまったので、修士課程からは同じ線虫を使って、老化の研究をしている研究室に移りました。老化と聞くと神経の活動が低下して起こると思われるかもしれませんが、逆に神経が過剰に活性化することによって老齢線虫の学習行動が阻害されることを突き止め、卒業後に著者の一人として論文を発表することができました。予想外の結果が出たときの驚きと興奮は今でも覚えています。この研究室も国際色豊かで、進捗報告会を英語で行なったり、修士論文を英語で書いたりしたことは、会社に入ってからも海外とのやりとりをする上でとても役立っています。

大学での学びが活きる仕事
就職活動はちょうどコロナ禍で、すべてがオンラインの時期でした。好きな生物と化学を活かせる仕事をしたくて、製薬と食品系で探していたところ、味の素のインターンに参加する機会をいただきました。グルタミン酸だけでなくトリプトファンやリジンなど、微生物を使ってつくる様々なアミノ酸が、再生医療用の細胞培養液など、最先端の領域を含めて社会の至るところで役立っていることを知り、出口の見える研究もいいなと感じました。大学時代の様々な経験を評価して頂けたのか採用が決まり、今は川崎市にある研究所で、アミノ酸をつくる発酵技術の開発に取り組んでいます。具体的には、生産性を上げるために微生物の育種改良を進めたり、ラボスケールを工場スケールにもっていくための条件検討などを行なっています。ひとつひとつのプロセスは大学の研究室での実験と同じように進むのですが、アウトプットが社会貢献に直結するところが企業での研究の魅力です。
取材・構成・撮影/松林 嘉克

