論文紹介

研究代表者

伊藤正樹

所 属 名古屋大学大学院生命農学研究科
著 者

Eriko Iwata, Saki Ikeda, Sachihiro Matsunaga, Mariko Kurata, Yasushi Yoshioka, Marie-Claire Criqui, Pascal Genschik, and Masaki Ito
(岩田恵里子、池田早紀、松永幸大、倉田真理子、吉岡泰、Marie-Claire Criqui、Pascal Genschik、伊藤正樹)

論文題目

GIGAS CELL1, a novel negative regulator of the anaphase-promoting complex/cyclosome, is required for proper mitotic progression and cell fate determination in Arabidopsis.
(後期促進複合体を負に制御する新奇タンパク質GIGAS CELL1は有糸分裂の進行と細胞運命決定に必要である。)

発表誌

Plant Cell 23: 4382-4393, 2011

要 旨

  体細胞の核DNA量が倍加する変異体gig1をシロイヌナズナから単離しました。この変異体の表皮をライブセルイメージングにより解析した結果、有糸分裂の後期まで進行した細胞が、姉妹染色体を紡錘体極に移動させることができず、核分裂を完了できないまま最終的に1つの核に取り込まれている様子が明らかになりました。このような現象は、エンドマイトーシスとよばれる体細胞における染色体数の倍加現象とよく似ていることがわかりました。エンドマイトーシスは通常、タペート層の細胞などごく限られた細胞にだけ生じることが知られていますが、gig1変異体では異所的なエンドマイトーシスにより高頻度で倍加した体細胞が生じていると考えられました。原因遺伝子GIG1を単離し、詳細な機能解析を行った結果、GIG1はM期サイクリンの分解を誘導するユビキチンリガーゼ(後期促進複合体、APC)を阻害するはたらきを持つことが明らかになりました(図1)。gig1変異体ではM期サイクリンの過剰な分解により、通常より早期に有糸分裂を終了してしまうことによりエンドマイトーシスが引き起こされていると考えられます。さらに、gig1変異体では、ペイブメントセルと孔辺細胞の両方の性質を併せ持つ表皮細胞が生じることから、GIG1には異所的なエンドマイトーシスを抑制するはたらきのほか、表皮における細胞運命決定に重要なはたらきがあると考えられました。

図1.GIG1によるAPCユビキチンリガーゼ複合体の抑制
後期促進複合体(APC)はM期サイクリンなどを基質とした、ユビキチンリガーゼ複合体であり、有糸分裂の進行に必須な働きを持つことが知られている。GIG1はこのAPC活性を抑制しM期サイクリンを安定化させることにより、有糸分裂の適切な進行に重要なはたらきを担っている。gig1 変異体では、APCが過剰に活性化し、M期サイクリンの量が減少することによりエンドマイトーシスが引き起こされていると考えられる。
研究室HP