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計画研究の内容

【研究項目A02:メリステムの機能変換の統御系】

 
班員名・所属 荒木 崇 [ 京都大学大学院生命科学研究科 教授 ]
研究課題名 茎頂メリステムの相転換を調節する統御系の分子基盤
課題番号 19060012
研究目的

 本研究は、花成を中心とした茎頂メリステムの相転換と器官形成が成熟した器官が生成する長距離作用性シグナル分子を介して統合的に調節される過程の分子基盤を明らかにすることを目指す。具体的には、(1)FT遺伝子の産物(mRNA・タンパク質)の生成とFTタンパク質の輸送を制御する分子機構の解明、(2)茎頂メリステムにおけるFTタンパク質の作用機序の解明、(3)花成に伴っておこる、茎頂メリステムが関わる全身的・協調的な生理変化におけるFTタンパク質の役割の探索と新規の長距離作用性シグナル分子の探索、をおこなう。

 (1)に関しては、輸送の制御機構と茎頂メリステムにおけるFTタンパク質の分布について研究を進める。(2)に関しては、FTタンパク質と相互作用する転写制御因子の網羅的探索を核に、茎頂メリステムにおける転写制御ネットワークにおけるFTタンパク質の役割を、相同タンパク質でありながら相反する機能を持ったTFL1タンパク質との関係を含めて明らかにする。また、FTタンパク質の重要なパートナーである転写因子FDのリン酸化による制御機構を明らかにする。(3)では、(2)の進展を踏まえつつ、FTタンパク質が花成に伴う側枝の伸長調節に関わる可能性を中心に検証を進める。これらに加えて、新規の試みとして、ゼニゴケを用いたメリステム相転換の制御機構の進化・起源の研究に着手する。

主要論文

Notaguchi, M., Daimon, Y., Abe, M., Araki, T. (2009) Adaptation of a seedling micro-grafting technique to the study of long-distance signaling in flowering of Arabidopsis thaliana. J. Plant Res. 122, 201-214.

Notaguchi, M., Abe, M., Kimura, T., Daimon, Y., Kobayashi, T., Yamaguchi, A., Tomita, Y., Dohi, K., Mori, M., Araki, T. (2008) Long-distance, graft-transmissible action of Arabidopsis FLOWERING LOCUS T protein to promote flowering. Plant Cell Physiol. 49, 1645-1658.

Abe, M., Kobayashi, Y., Yamamoto, S., Daimon, Y., Yamaguchi, A., Ikeda, Y., Ichinoki, H., Notaguchi, M., Goto, K., and Araki, T. (2005) FD, a bZIP protein mediating signals from the floral pathway integrator FT at the shoot apex. Science 309, 1052-1056.

研究室URL http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/plantdevbio/index.html
班員名・所属 中村 研三 [ 中部大学応用生物学部 教授 ]
研究課題名 胚性メリステムから栄養メリステムへの転換の統御系
課題番号 19060011
研究目的

 シロイヌナズナの胚発生で作られる茎頂と根端のメリステムは、種子の成熟・休眠に至る過程では休止状態にあり、発芽後に栄養メリステムとしての活動を開始する。種子植物では、下等植物が見せる胚発生から連続した発生プログラムの途中に、種子成熟プログラムが挿入されて胚の休眠と栄養貯蔵能が獲得されたと考えられている。種子の成熟から発芽、栄養生長へのプロセスは、ステージ特異的転写因子と植物ホルモンや栄養シグナルによって複雑に制御され、胚発生から種子成熟の過程を上位で制御するLEC 遺伝子群や、種子成熟から発芽に至る過程のアブシジン酸やジベレリンを介した制御が良く知られている。しかし、種子成熟プログラムの終止、休眠から栄養成長への転換の制御機構の多くは不明である。我々は、B3 DNA結合ドメインを持つ転写抑制因子、HSI2とHSL1、が発芽後の種子成熟プログラムの抑制、栄養生長への転換に必須の役割を担うことを見出した。本研究ではHSI2,HLS1の機能や作用機構の解析を通して胚性メリステムから栄養メリステムへの転換における遺伝子発現の時空間制御と植物ホルモンや栄養シグナルの情報統御を明らかにする。上記研究に加えて、植物メリステムの機能維持や、機能転換に関わる因子の同定と機能解明を行う。

主要論文

Rodor, J., Jobet, E., Bizarro, J., Vignols, F., Carles, C., Suzuki, T., Nakamura, K. and Echeverría, M.: AtNUFIP, an essential protein for plant development, reveals the impact of snoRNA gene organisation on the assembly of snoRNPs and rRNA methylation in Arabidopsis thaliana. Plant J. 65:807-819 (2011).

Inagaki, S., Nakamura, K. and Morikami, A.: A link between DNA replication, recombination, and gene expression revealed by genetic and genomic analysis of TEBICHI gene of Arabidopsis thaliana. PLoS Genet. 5: e1000613 (2009).

Tsukagoshi, H., Morikami, A. and Nakamura, K.: Two B3 domain transcriptional repressors prevent sugar-inducible expression of seed maturation genes in Arabidopsis seedlings.  Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104: 2543-2547 (2007).

研究室URL  
班員名・所属 山本 興太朗 [ 北海道大学大学院理学研究院 教授 ]
研究課題名 植物ホルモンであるオーキシンによる統御系
課題番号 19060008
研究目的

 植物器官間の統御情報因子として最も古くから知られているのは、器官間で極性輸送される植物ホルモン、オーキシンである。オーキシンのシンクとして機能する部位にメリステムが形成されたり(根端メリステム)、器官が形成されること(茎頂メリステム)が分かっているが、オーキシンの下流で働く分子機構は依然不明である。オーキシンの機能の根源は、厳密に調節された時間的、空間的範囲で特定の遺伝子発現を誘導することだと考えられるので、第一にオーキシン信号伝達系のARF-Aux/IAAモジュールが時空間的に調節される仕組みを、特にMSG2/IAA19について、ルシフェラーゼ・レポーター等を用いて、胚軸や葉柄や花糸等の軸性器官の成長現象に即して明らかにする。第二に、MSG2タンパク質と協調して働く因子を、msg2優性変異のサプレッサーを同定したり、同タンパク質と相互作用するタンパク質の網羅的解析を行うことによって明らかにし、オーキシンによる情報統御機構の解明を目指す。第三に、オーキシンが関わる植物の成長方向維持機構を明らかにするために同機構が異常になった突然変異体の原因遺伝子を同定し、その遺伝子機能とオーキシンとの関わりを明らかにする。

主要論文

Tashiro, S., Tian, C.-e., Watahiki, M. K., and Yamamoto, K. T. (2009) Changes in growth kinetics of stamen filaments cause inefficient pollination in massugu2, an auxin insensitive, dominant mutant of Arabidopsis thaliana. Physiol. Plant. 137, 175-187.

Sato, A., and Yamamoto, K. T. (2008) Overexpression of the noncanonical Aux/IAA genes causes auxin-related aberrant phenotypes in Arabidopsis. Physiol. Plant. 133, 397-405.

研究室URL http://www.sci.hokudai.ac.jp/~ky082/keitai1/kty/index.htm
班員名・所属 角谷 徹仁 [ 国立遺伝学研究所総合遺伝研究系育種遺伝研究部門 教授 ]
研究課題名 メリステム機能のエピジェネティックな統御系
課題番号 19060014
研究目的

 遺伝子発現情報が塩基配列以外の形(染色体蛋白質やDNAの修飾)で細胞分裂後も染色体上に保持される現象が哺乳類から酵母まで真核生物で普遍的に観察される。このような「エピジェネティック」な制御は、多細胞生物の発生過程における遺伝子発現の維持に重要であることが証明されつつある。私達はこれまで、植物の発生におけるエピジェネティックな制御の役割を知るため、DNA低メチル化突然変異体 ddm1 (decreasein DNA methylation 1)を用いてきた。この突然変異は他の遺伝子座を変化させることにより種々の発生異常を誘発する。そのうちの一つである開花時期遅延は、インプリント遺伝子FWAが異所的に発現するgain-of-function型のエピジェネティック変異だった。一方、私達がbonsaiとよぶ発生異常は、節間伸長の阻害と葉序の乱れを示す。遺伝解析の結果、この発生異常は、これまで調べられていない細胞周期制御遺伝子の発現抑制によることがわかった。BONSAI遺伝子によるメリステム制御の機構を知るため、分子遺伝学的なアプローチをとる。この遺伝子の発現抑制に伴い、BONSAI領域をカバーする 低分子量RNAが蓄積する。本研究では、低分子量 RNA形成やクロマチン制御に関与する遺伝子の変異体を材料に用い、この遺伝子の転写抑制にいたる情報統御機構を遺伝的に解剖し、これに関与する因子を同定する。具体的には、それぞれの突然変異体および多重突然変異体のバックグラウンドにおける転写、低分子量RNA、DNAメチル化を解析し、発生異常にいたる経路を明らかにする。さらに、この遺伝子のメチル化を制御する新たな突然変異体を選抜する。これによって、本研究期間内に、この奇妙な発生制御の機構を分子レベルで明らかにする。

 当研究室はこれまで、ゲノム構造や染色体挙動の制御に重点をおいた研究を行ってきたが、本特定領域に参加することにより、個体発生、とくにメリステム制御の研究グループとの相互作用により、新たな視点で研究が推進できると考える。本研究の素材は、これまで知られていないタイプのエピジェネティックな発生異常であり、本研究によってメリステム発生制御の新たな経路を見いだせると信じる。

主要論文

Inagaki S, Miura-Kamio A, Nakamura Y, Lu F, Cui X, Cao X, Kimura H, Saze H, and Kakutani T (2010) Autocatalytic differentiation of epigenetic modifications within the Arabidopsis genome. EMBO J, 29, 3496-3506.

Tsukahara S, Kobayashi A, Kawabe A, Miura A, and Kakutani T (2009) Burst of retrotransposition reproduced in Arabidopsis.  Nature 303, 423-426.

Saze H, Shiraishi A, Miura A, Kakutani T (2008) Control of genic DNA methylation by a jmjC-domain containing protein in Arabidopsis thaliana.  Science  319, 462-465.

研究室URL http://www.nig.ac.jp/labs/AgrGen/home-j.html
班員名・所属 福田 裕穂 [ 東京大学大学院理学系研究科 教授 ]
研究課題名 情報統御分子の伝搬器官としての維管束系の分化
課題番号 19060009
研究目的

 維管束はメリステムと植物諸器官を結び、養分のみ成らず情報の伝達を行う。 また、維管束はメリステムと呼応して形成され、双方向での影響を与え合う。

 これまでに私たちは、維管束の連続性の促進因子として アラビノガラクタ ンタンパク質xylogen、管状要素分化の阻害 因子として12個のアミノ酸からな るTDIFペプチド、また、維管 束連続性に関わる細胞内のシグナル伝達として小胞輸送に関連するVAN3タンパク質、管状要素分化のマスター遺伝子として VND転写因子 群、維管束幹細胞から木部細胞への分化のトリガーとなるブラ シノステロイドなどを単離同定してきた。興味深いことに、 これらの因子の多くはメリステム形成あるいはメリステム機能と関連していた。

 本研究においては、これら因子の機能と相互の関係を分子レベルで明らかに することにより、メリステムと関連した維管束系の形成機構の解明を目指す。

主要論文

Oda, Y., Iida, Y., Kondo, Y. and Fukuda H.: Wood cell-wall structure requires local 2D-microtubule disassembly by a novel plasma membrane-anchored microtubule-associated protein. Curr Biol. 20: 1197-1202, 2010.

Hirakawa Y., Kondo, Y., and Fukuda, H.: TDIF peptide signaling regulates vascular stem cell proliferation via the wox4 homeobox gene in Arabidopsis. Plant Cell, 22: 2618-2629, 2010.

Ohashi-Ito, K., Oda, Y. and Fukuda, H.: Arabidopsis VASCULAR-RELATED NAC-DOMAIN6 directly regulates genes that govern programmed cell death and secondary wall formation in a coordinated way during xylem differentiation. Plant Cell, 22: 3461-3473, 2010.

研究室URL http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/seigyo/lab.html

公募研究の内容

【研究項目 A02:メリステムの機能変換の統御系】

 
班員名・所属 藤田 知道 [ 北海道大学大学院理学研究院 准教授 ]
研究課題名 メリステム制御の基盤を支える植物幹細胞の不等分裂の分子機構の解明
課題番号 23012002
研究目的

 植物の形態形成はメリステムにある幹細胞の増殖と分化のバランスにより制御されている。幹細胞の不等分裂はこのようなバランスを支える基本的しくみであり、メリステムを理解するためには幹細胞の不等分裂の分子制御機構の理解は不可欠である。これまでに幹細胞の不等分裂に関わる因子がいくつか報告されている。しかしながら、幹細胞はヘテロな細胞集団に囲まれて存在し、単離培養することが困難であるなどのため、細胞レベルでの分子機構はまだよくわかっていない。私達はヒメツリガネゴケから単離したプロトプラストや原糸体の頂端細胞は、露出した幹細胞であり、不等分裂を細胞レベルで研究するのに極めて優れていると考えている。そこで本研究は、ヒメツリガネゴケ幹細胞に着目し、不等分裂による幹細胞の自己複製と細胞分化が細胞周期とともにどのように制御されているかの分子機構の時空間的制御を1細胞レベルから明らかにすることを目的とする。

 これまでの研究からヒメツリガネゴケの幹細胞に特異的に蓄積する新規蛋白質や不等分裂の制御に重要な役割を担っていると考えている複数の因子に着目し、幹細胞の不等分裂過程におけるこれら因子の機能解析をすすめる。またアブシジン酸が不等分裂を抑制し等分裂を誘導するらしいことを見出した。この分子制御機構を明らかにし、どのようなしくみで不等分裂と等分裂が切り替えられるのかという問いにも迫りたい。

主要論文

Hiwatashi, Y., Obara, M., Sato, Y., Fujita, T., Murata, T., and Hasebe, M. 2008. Kinesins are indispensable for interdigitation of phragmoplast microtubules in the moss Physcomitrella patens., Plant Cell, 20: 3094-3106.

Fujita, T., Sakaguchi, H., Hiwatashi, Y., Wagstaff, S. J., Ito, M., Deguchi, H., Sato, T., and Hasebe, M. 2008. Convergent evolution of shoots in land plants: lack of auxin polar transport in moss shoots. Evol. Dev., 10: 176-186.

Rensing, S. A., Lang, D., Zimmer, A., Terry, A., Salamov, A., Shapiro, H., Nishiyama, T., Perroud, P.-F., Lindquist, E., Kamisugi, Y., Tanahashi, T., Sakakibara, K., Fujita, T., Oishi, K., Shin-I, T., Kuroki, Y., Toyoda, A., Suzuki, Y, Hashimoto, S., Yamaguchi, K., Sugano, S., Kohara, Y., Fujiyama, A., Anterola, A., Aoki, S., Ashton, N., Barbazuk, W. B., Barker, E., Bennetzen, J., Blankenship, R., Cho, S. H., Dutcher, S. K., Estelle, M., Fawcett, J. A., Gundlach, H., Hanada, K., Hey, A., Hicks, K. A., Hughes, J., Lohr, M., Mayer, K., Melkozernov, A., Murata, T., Nelson, D., Pils, B., Prigge, M., Reiss, B., Renner, T., Rombauts, S., Rushton, P., Sanderfoot, A., Schween, G., Shiu, S.-H., Stueber, K., Theodoulou, F. L., Tu, H., de Peer, Y. V., Verrier, P. J., Waters, E., Wood, A., Yang, L., Cove, D., Cuming, A. C., Hasebe, M., Lucas, S., Mishler, B. D., Reski, R., Grigoriev, I. V., *Quatrano, R. S., Boore, J. L. 2008. The genome of the moss Physcomitrella patens reveals evolutionary insights into the conquest of land by plants., Science, 319: 64-69.

研究室URL

http://www.sci.hokudai.ac.jp/~tfujita/Fujita/welcome.html
http://www.nibb.ac.jp/evodevo/

班員名・所属 阿部 光知 [ 東京大学大学院理学系研究科 准教授 ]
研究課題名 相転換を調節する葉から茎頂への情報輸送経路の分子機構
課題番号 2301212
研究目的

 植物の栄養成長から生殖成長への相転換(花成)は、葉において産生された長距離性情報分子(フロリゲン)が茎頂メリステムへと輸送されることで調節されている。ここ数年の花成研究の目覚ましい進展によって、フロリゲンの分子的実体がFTタンパク質であることが明らかにされてきた。しかし、フロリゲンが長距離性の情報分子としてふるまう上での重要なプロセスである、葉から茎頂への輸送過程に関する知見は十分とはいえず、現時点においても新規な知見が求められる状況にある。

 維管束篩部は、光合成産物を輸送する組織として高等植物の成長制御に重要であると考えられてきた。しかしながら、生物現象を制御する機能性分子(蛋白質やRNA)の理解の進展に伴い、情報伝達経路としての篩部組織機能に注目が集まっている。フロリゲンを介した花成誘導現象は、そうした篩部を介した情報伝達系によって制御される発生現象の代表例に挙げられる。

 そこで、本研究課題では維管束篩部を介したFTタンパク質の輸送経路に注目し、シロイヌナズナ変異体を用いた遺伝学的手法、バイオイメージング的手法を用いて解析することによって、フロリゲンの葉から茎頂メリステムへの輸送プロセスの一端を明らかにすることを目指す。

主要論文

Abe M, Kobayashi Y, Yamamoto S, Daimon Y, Yamaguchi A, Ikeda Y, Ichinoki H, Notaguchi M, Goto K, Araki T. FD, a bZIP protein mediating signals from the floral pathway integrator FT at the shoot apex. Science 309: 1052–1056. (2005)

Yamaguchi A, Kobayashi Y, Goto K, Abe M, Araki T. TWIN SISTER OF FT (TSF) acts as a floral pathway integrator redundantly with FT. Plant & Cell Physiology, 46: 1175-1189. (2005)

Notaguchi M, Abe M, Kimura T, Daimon Y, Kobayashi T, Yamaguchi A, Tomita Y, Dohi K, Mori M, Araki T. Long-distance, graft-transmissible action of Arabidopsis FLOWERING LOCUS T protein to promote flowering. Plant & Cell Physiology, 49: 1645-1658. (2008)

研究室URL http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/iden/index.html
班員名・所属 服部 束穂 [ 名古屋大学生命農学研究科 教授 ]
研究課題名 胚発生相における発芽後成長相プログラム発動抑制機構
課題番号 23012019
研究目的

 植物の成長相転換は、2つの要素でとらえることができる。一つは、その成長相を特徴づける遺伝子プログラムの作動であり、もう一つは他の成長相を特徴づけるプログラムの抑制である。本研究は、胚発生過程において発芽後成長を特徴づけるプログラムの抑制メカニズムを明らかにすることを目的とする。

 LEC1等種子成熟マスターレギュレータ遺伝子が機能喪失すると、貯蔵物質の蓄積や休眠の獲得が起きない一方、胚発生過程でのトリコーム形成や気孔の分化SAMおよびRAMの早熟活性化など発芽後成長プログラムの異時発現がみられる。私たちは、lec1での発芽後成長プログラム異時発現をPYK10などのマーカー遺伝子を用いて詳細に解析し、胚発生相での発芽後プログラム作動抑制におけるエピジェネティック制御の関与を示唆する結果を得た。さらに、このような発芽後成長相プログラムの抑制メカニズムを追求するため、このようなマーカー遺伝子が胚において異時発現する新奇変異体heterochronic expression of pyk10hep;仮称)を多数分離した。本研究は、これら変異体の性質、原因遺伝子の特定ならびにその機能の解析を通して、胚発生相における発芽後成長プログラム抑制機構を明らかにしようとするものである。

主要論文

Yamamoto, A., Kagaya, Y., Usui, H., Hobo, T, Takeda, S. and Hattori, T. (2010) Diverse roles and mechanisms of gene regulation by the Arabidopsis seed maturation master regulator FUS3 revealed by microarray analysis.  Plant Cell Physiol. 51, 2031-2046.

Sugimoto, K., Takeuchi, Y., Ebana, K., Miyao, A., Hirochika, H., Hara, N., Ishiyama, K., Kobayashi, M., Ban, Y. , Hattori T. and Yano, M. (2010) Molecular cloning of Sdr4, a regulator involved in seed dormancy and domestication of rice. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 107, 5792-5797.

Yamamoto, A., Kagaya, Y., Toyoshima, R., Kagaya, M., Takeda, S. and Hattori T. (2009) Arabidopsis NF-YB subunits LEC1 and LEC1-LIKE activate transcription by interacting with seed-specific ABRE-binding factors. Plant J. 58, 843–856.

研究室URL  
班員名・所属 篠原 秀文 [ 自然科学研究機構基礎生物学研究所 助教 ]
研究課題名 生化学的結合を指標としたLRR型受容体キナーゼのリガンド探索
課題番号 23012020
研究目的

 植物に数多く存在する受容体様キナーゼの中でも、LRR型受容体キナーゼには機能的に興味深い分子群が見出されており注目を集めている。シロイヌナズナゲノムに見出されるLRR型受容体キナーゼ遺伝子は216種類だが、現時点では大半がリガンド未知のまま残されている。本研究ではこのLRR型受容体キナーゼに着目し、ペプチドホルモンを直接結合する受容体の同定、およびリガンド結合部位の解析を通じて、植物のかたちづくりに関わる細胞間情報伝達系の解析を行う。

 具体的には、(1)タバコ培養細胞BY-2株でのHaloTag融合受容体過剰発現体の作製を通じて、リガンド結合能を維持した状態で「受容体発現ライブラリー」の構築、拡大を行う。(2)構築した受容体発現ライブラリーに対して、RGFなどの受容体未知ペプチドをターゲットとした光反応性ペプチドの作製とフォトアフィニティーラベル実験、および放射性標識ペプチドの作製とリガンド結合実験を行い、新規リガンド—受容体ペアの同定を目指す。(3)LRR型受容体のリガンド認識機構の解析を行う。具体的には、BAM1をモデルとしてフォトアフィニティーラベルを応用したリガンド結合部位の生化学的解析、およびタンパク質立体構造予測ソフトMOEを用いて細胞外領域LRRのホモロジーモデリングを並行して行い、コンセンサスの高いLRR中に存在しているリガンド結合領域の同定を行う。

主要論文

Ohyama K., Shinohara H., Ogawa-Ohnishi M., Matsubayashi Y. (2009) A glycopeptide regulating stem cell fate in Arabidopsis. Nature Chem. Biol. 5, 578-580

Ogawa, M., Shinohara H., Sakagami, Y., Matsubayashi, Y. (2008) Arabidopsis CLV3 peptide directly binds CLV1 ectodomain. Science 319, 294

Shinohara H.. and Matsubayashi, Y. (2007) Functional immobilization of plant receptor-like kinase onto microbeads towards receptor array construction and receptor-based ligand fishing. Plant J. 52, 175-184

研究室URL http://www.nibb.ac.jp/ligand/
班員名・所属 金岡 雅浩 [ 名古屋大学理学研究科 助教 ]
研究課題名 ライブイメージングと種間比較による花粉管誘引の長距離・短距離シグナルの機能解析
課題番号 23012021
研究目的

 花粉管ガイダンスとは、雌しべ内部を伸長する花粉管を卵細胞のある胚のうへと導くメカニズムであり、被子植物の受精と次世代の発生にとってきわめて重要な現象である。花粉管はその伸長過程で、胚のうの助細胞から分泌されるLUREペプチドなど様々なシグナルを受容し伸長方向を決定していると考えられているが、その実体や受容メカニズムについてはほとんど分かっていない。花粉管がどのようにして外部からの複数のシグナルを区別し応答するのかを明らかにするため、本年度は以下の2点について取り組む。(1)我々はT. fournieriの花粉管が培地上で、数mm離れたところに位置する胚珠へと誘引されることを見いだした。助細胞によるガイダンスの有効距離は200マイクロメートル以下であるので、これはLUREとは異なる物質によるガイダンスだと考えられる。花粉管の応答を定量的に評価する実験系を開発し、「長距離ガイダンス」の実体の解明を目指す。(2)T. fournieriとその近縁種T. concolor ではLURE1のアミノ酸配列は87%相同であるにもかかわらず、LURE1は異種よりも同種の花粉管を強く誘引する。この誘引活性の違いがどのようにしてもたらされているのか明らかにし、また花粉管によるLUREの受容の様子をイメージングすることにより、花粉管がガイダンス物質に応答するメカニズムの解明を目指す。

主要論文

Kanaoka, MM., Kawano N., Matsubara, Y., Susaki D., Okuda, S., Sasaki N., Higashiyama T. (2011)  “Identification and characterization of TcCRP1, a pollen tube attractant from Torenia concolor.”  Annals of Botany, in press.

Okuda, S., Tsutsui, H., Shiina, K., Sprunck, S., Takeuchi, H., Yui, R., Kasahara, R.D., Hamamura, Y., Mizukami, A., Susaki, D., Kawano, N., Sakakibara, T., Namiki, S., Itoh, K., Otsuka, K., Matsuzaki, M., Nozaki, H., Kuroiwa, T., Nakano, A., Kanaoka, MM., Dresselhaus, T., Sasaki, N., *Higashiyama, T. (2009) “Defensin-like polypeptide LUREs are pollen tube attractants secreted from synergid cells.” Nature, vol. 458, pp. 357-361. [cover of the issue]

Kanaoka, MM., Pillitteri, LJ., Fujii, H., Yoshida, Y., Bogenschutz, NL., Takabayashi, J., Zhu, J-K., Torii, KU. (2008) “SCREAM/ICE1 and SCREAM2 Specify Three Cell-State Transitional Steps Leading to Arabidopsis Stomatal Differentiation” The Plant Cell, vol. 20, pp. 1775–1785. [cover of the issue]

研究室URL http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/~b3/index.html
班員名・所属 森 仁志 [ 名古屋大学大学院生命農学研究科 教授 ]
研究課題名 腋芽を休眠から成長に相転換させる情報制御系に関する研究
課題番号 23012022
研究目的

 頂芽優勢は頂芽が腋芽の成長を抑制して優先的に成長する現象である。これは茎頂のメリステムから形成された腋生分裂組織が、側生器官としての腋芽に分化・成長した後に、器官の相関により休眠し、その状態を維持することによって成り立っている現象である。また、頂芽が切除されると休眠していた腋芽は成長を開始する。この一連の過程は、腋芽メリステムが1)分化・成長から休眠へ、また2)休眠から分化・成長へと相転換する現象である。1)の相転換にはストリゴラクトンが情報の制御系として関与していることが、2008年に明らかにされた。2)の相転換は主にオーキシンとサイトカイニンの協調によって支配されている。我々はこれまでの研究により、以下のことを明らかにした。腋芽が休眠を維持しているのは、茎を流れるオーキシンによって腋芽の成長開始に必要なサイトカイニンの生合成系遺伝子isopentenyltransferase (PsIPT)の発現が抑制されているからであり、頂芽切除後は、茎へのオーキシンの供給が絶たれるので、オーキシンによる転写抑制が解除され、PsIPTが発現してサイトカイニンが合成され、それが腋芽に供給され成長を開始する。この研究成果を発展させるために、本研究では、オーキシンによるPsIPT転写抑制の分子機構と、サイトカイニンによる腋芽休眠解除の分子機構を明らかにする。また、エンドウの形質転換系の確立を目指す。

主要論文

Tanaka, M., Takei, K., Kojima, M., Sakakibara, H. and Mori, H. (2006) Auxin controls local cytokinin biosynthesis in the nodal stem in apical dominance. Plant J. 45: 1028-1036.

Shimizu-Sato, S., Ike, Y. and Mori, H. (2008) PsRBR1 encodes a pea retinoblastoma-related protein that is phosphorylated in axillary buds during dormancy-to-growth transition. Plant Mol. Biol., 66: 125-135.

Shimizu-Sato, S., Tanaka, M. and Mori, H. (2009) Auxin-cytokinin interactions in the control of shoot branching. Plant Mol. Biol., 69: 429-435.

研究室URL

http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~bunka/MORI-HP/HTML/mori_top.html

班員名・所属 矢崎 一史 [ 京都大学生存圏研究所 教授 ]
研究課題名 根の側生器官発生に関わるAТP結合カセット蛋白質の情報分子輸送とメリステム制御
課題番号 23012024
研究目的

 マメ科のモデル植物ミヤコグサは根粒菌の Mesorhizobium loti の感染により根粒を形成するが、その過程において最も初期に発現するABC 蛋白質LjABCG1 を見いだした。根粒形成の初期には細胞分裂と、それに続くメリステム様分裂組織の形成が起こるが、このプロセスには植物ホルモンが重要であると指摘されている。しかしその膜輸送体に関しては未解明である。

 そこで本研究では、根粒原基や側根メリステムで特異的に発現するミヤコグサのLjABCG1 の機能解明を行うことを目的とする。オーキシン及びサイトカイニン応答性プロモーターの下流で各種蛍光蛋白質を発現する形質転換ミヤコグサや蛍光標識した根粒菌を用いて、根粒形成時と側根形成時におけるLjABCG1の発現、植物ホルモン濃度変化、根粒菌の動態をイメージングする。また輸送解析を行い、LjABCG1 のオーキシン・サイトカイニン輸送能を調べる。さらに、LjABCG1 の高発現体と発現抑制株の表現型解析と、各種植物ホルモンをターゲットとしたメタボローム解析を行い、これらの知見を総合して、側根形成と根粒形成のメリステム制御に関するLjABCG1 の役割を明らかにする。

 上記に加え、ATP-結合カッセットを有しない輸送体蛋白質の中にも根粒形成時に特異的に発現誘導されるものがあるため、解析する対象遺伝子をやや広く取り、根粒の形成や機能に関係するMATEタイプやALMTタイプなど他の輸送体に関しても併行して解析を進める予定である。

主要論文

Takanashi, K., Sugiyama, A., Yazaki, K., Involvement of auxin distribution in root nodule development of Lotus japonicus, Planta, in press.

Nakagawa, T., Kaku, H, Shimada, Y., Sugiyama, A., Shimomura, M., Takanashi, K., Yazaki, K., Aoki, T., Naoto, S., Kouchi, H., From defense to symbiosis: Limited alterations in the kinase domain of LysM receptor-like kinases are crucial for evolution of legume-Rhizobium symbiosis, Plant J., 65 (2), 169-180 (2011).

Yazaki, K., Shitan, N., Sugiyama, A., Takanashi, K., Cell and molecular biology of ATP-binding cassette proteins in plants. Intl. Rev. Cell Mol. Biol., 276, 263-299, (2009).

研究室URL

http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/W/LPGE/

班員名・所属 河内 孝之 [ 京都大学大学院生命科学研究科 教授 ]
研究課題名 メリステム発生と生長相制御機構の比較ゲノム解析
課題番号 23012025
研究目的

 メリステムの維持と機能転換は植物の発生制御に重要な役割を果たす。また、メリステムの活性と機能は、外的環境や既にできあがった器官からの情報によって可塑的に影響を受ける。本研究では、環境情報と内的な発生プログラムが多細胞体制個体としての発生過程で統御され機構を進化系統軸に沿って理解することを目指す。

  陸上植物進化の基部に位置する苔類ゼニゴケは、全ゲノム解読や遺伝子機能解析手法の開発が進み、分子遺伝学的研究を展開する環境が整ってきた。半数体が優勢で形質転換が高効率である利点もあり、新興モデル植物として注目されている。ゼニゴケの発生・再分化過程や生殖生長相移行の制御を対象として、環境と個体統御の分子遺伝学的研究を推進する。これまでに赤色光がフィトクロムを介して細胞分裂を促進することが明らかになった。光に対する細胞応答を細胞分裂の点から追跡し、細胞・組織・個体レベルでの光応答の役割を理解する。なかでも光が細胞周期制御に対して与える効果について解析する。オーキシンは、発生を始め様々な現象に内的制御分子として重要な役割を果たす。ゼニゴケの遺伝的冗長性の低さを活かして、オーキシンに関連する因子の生化学的解析、発現解析、機能欠損および機能獲得変異体の解析を行い、オーキシンを介する発生制御のモデリングを行う。配偶体世代が主要なゼニゴケを用いて、相転換や発生の変異体を解析する。配偶体世代における発生制御を種子植物の発生制御と比較することによって、発生原理の普遍性と多様性を理解する。

主要論文

Tougane, K., Komatsu, K., Bhyan, S. B., Sakata, Y., Ishizaki, K., Yamato, K. T., Kohchi, T., and Takezawa, D. Evolutionarily conserved regulatory mechanisms of abscisic acid signaling in land plants: characterization of ABSCISIC ACID INSENSITIVE1-like type-2C protein phosphatase of the liverwort Marchantia polymorpha L. Plant Physiol. 152, 1529-1543 (2010).

Era, A., Tominaga, M., Ebine, K., Awai, C., Saito, C., Ishizaki, K., Yamato, K. T., Kohchi, T., Nakano, A., and Ueda, T. Application of Lifeact reveals F-actin dynamics in Arabidopsis thaliana and the liverwort, Marchantia polymorpha. Plant Cell Physiol., 50, 1041-1048 (2009) .

Ishizaki, K., Chiyoda, S., Yamato, K.T., and Kohchi, T. Agrobacterium-mediated transformation of the haploid liverwort Marchantia polymorpha L., an emerging model for plant biology. Plant Cell Physiol., 49, 1084-1091 (2008).

研究室URL

http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/plantmb/

班員名・所属 相田 光宏 [ 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 特任准教授 ]
研究課題名 花メリステム構築の分子メカニズム
課題番号 23012031
研究目的

 植物のメリステムは一生を通じて繰り返し形成される。発芽後に植物体の地上部で形成されるメリステムは、枝を生じるもの(腋生メリステム)と花を生じるもの(花メリステム)の2種に大別され、どちらが形成されるかは、環境刺激と内的プログラムに応じて決まる。また、個々のメリステムが器官形成能を獲得するためには、その内部に幹細胞群を確立することが必須である。このように、発芽後のメリステムの形成には「(枝か花かの)運命決定」と「幹細胞の確立」の両方のプロセスが協調して起こることが重要であるが、これまではそれぞれが個別に研究され、両者の関係の理解は不十分であった。我々は、シロイヌナズナのAP2型転写因子PUCHIが花メリステムの形成過程における「運命決定」と「幹細胞の確立」の両プロセスに重要な役割を持ち、その他の転写因子(LFY, BOP1, BOP2, UFO, CUC2, CUC3)と協調して花メリステムの構築に働くことを明らかにした(本特定領域H21−22年公募研究)。そこで本申請では「運命決定」と「幹細の胞確立」の両者をつなぐ鍵因子PUCHIの作用機構の解明を中心に、花メリステム構築の分子メカニズムの総合的な理解を目指す。

主要論文

Takeda S, Hanano K, Kariya A, Shimizu S, Zhao L, Matsui M, Tasaka M, Aida M (2011). CUP-SHAPED COTYLEDON1 transcription factor activates the expression of LSH4 and LSH3, two members of the ALOG gene family, in shoot organ boundary cells. Plant J. doi: 10.1111/j.1365-313X.2011.04571.x.

Takano S, Niihama M, Smith HMS, Tasaka M, Aida M (2010). gorgon, a novel missense mutation in the SHOOT MERISTEMLESS gene, impairs shoot meristem homeostasis in Arabidopsis. Plant Cell Physiol 51, 621-634.

Karim MR, Hirota A, Kwiatkowska D, Tasaka M, Aida M (2009). A role for Arabidopsis PUCHI in floral meristem identity and bract suppression. Plant Cell 21, 1360-1372.

研究室URL http://bsgcoe.naist.jp/special-grp01.html
班員名・所属 松下 智直 [ 九州大学農学研究院 特任准教授 ]
研究課題名 花成を制御するフィトクロムBのシグナル伝達機構の解明
課題番号 23012033
研究目的

 花成を制御する最も重要な外的要因の一つが光であり、その情報は主に植物の主要な光受容体であるフィトクロムによって捉えられる。フィトクロム蛋白質は、光受容に働くN末端領域と、キナーゼドメインを持つC末端領域からなり、これまでフィトクロムはC末端領域内のキナーゼ活性により下流にシグナルを伝達すると考えられてきた。しかし我々の最近の研究により、フィトクロムの最も主要な分子種であるphyBが、C末端領域からではなくN末端領域からシグナルを発信することが証明され、フィトクロムのシグナル伝達機構を一から見直す必要が生じた。そこで我々は、phyBシグナル伝達経路の根本的な見直しを図ることを目的として、フィトクロムと重複した機能を持つクリプトクロムの欠損株背景で約25万系統のアクチベーションタギングラインを作製し、光応答の低下を示す変異体をスクリーニングした結果、正常なphyB蛋白量を保ちながら、赤色光条件特異的に胚軸徒長を示す変異系統を単離した。この系統は、これまでに調べた限り全てのphyB反応において異常を示し、原因遺伝子を解析した結果、新奇の核局在性RNA結合蛋白質をコードする遺伝子の機能欠損型劣性変異体であることがわかった。本研究では、この新奇RNA結合蛋白質がphyBのシグナル伝達において正の因子として特異的に働く分子機構を解明し、RNA代謝制御を介した赤色光シグナリングというフィトクロム信号伝達の新たな側面を明らかにすることを目的とする。

主要論文

Matsushita T., Mochizuki N., and Nagatani A. (2003) Dimers of the N-terminal domain of phytochrome B are functional in the nucleus. Nature 424, 571-574.

Oka Y., Matsushita T., Mochizuki N., Suzuki T., Tokutomi S., and Nagatani A. (2004) Functional Analysis of a 450-Amino Acid N-Terminal Fragment of Phytochrome B in Arabidopsis. Plant Cell 16, 2104-2116.

Usami T., Matsushita T., Oka Y., Mochizuki N., and Nagatani A. (2007) Roles for the N- and C-terminal domains of phytochrome B in interactions between phytochrome B and cryptochrome signaling cascades. Plant Cell Physiol. 48, 424-433.

研究室URL  
班員名・所属 関 原明 [ 理化学研究所植物科学研究センター チームリーダー ]
研究課題名 乾燥ストレスからの回復過程におけるヒストン修飾を介した転写制御機構の解析
課題番号 23012036
研究目的

 植物には移動の自由がないため、環境ストレス変化に対して独自に適応する能力を有している。一般的に、植物は環境ストレスを与えることにより、ストレスに対してより強くなる事が経験的に知られている。このような植物が環境ストレス耐性を記憶する機構には、エピジェネティックなゲノムの制御機構が関与すると考えられるが、植物が一度受けた環境ストレスをヒストン修飾などのクロマチン制御を介して記憶する機構が存在するかどうかは不明のままである。そこで、本申請課題では、「一世代内で繰り返される環境ストレス刺激に対して、植物体がいかにクロマチンレベルで応答するのか」、また「これらの刺激は植物体にどのように記憶されていくのか」を調べることを目的とする。具体的には、まず、ポット育成シロイヌナズナ植物体を用いた乾燥ストレス処理(吸水停止)から再吸水による回復過程での遺伝子発現およびクロマチン変動を検出可能な実験系を構築する。この実験系を用いて、再吸水による回復過程におけるトランスクリプトーム解析、およびストレス誘導性遺伝子におけるヒストン修飾およびヌクレオソーム密度の継時的変化をクロマチン免疫沈降法により解析する。また、再吸水後、回復した植物体の乾燥ストレス耐性について、ストレスを与える前に比べて増加しているかも解析する。さらに、乾燥ストレスとその回復過程で変化するヒストン修飾に関与する酵素を同定し、それらの機能解析を行う。

主要論文

To, T.K., Kim, J.M., Matsui, A., Kurihara, Y., Morosawa, T., Ishida, J., Tanaka, M., Endo, T., Kakutani, T., Toyoda, T., Kimura, H., Yokoyama, S., Shinozaki, K. and Seki, M. (2011) Arabidopsis HDA6 Regulates Locus-Directed Heterochromatin Silencing in Cooperation with MET1. PLoS Genet. (in press)

To, T.K., Nakaminami, K., Kim, J.M., Morosawa, T., Ishida, J., Tanaka, M., Yokoyama, S., Shinozaki, K. and Seki, M. (2011) Arabidopsis HDA6 is required for freezing tolerance. Biochem. Biophys. Res. Commun. 406:414-419.

Kim, J.M., To, T., Nishioka, T. and Seki, M. (2010) Chromatin regulation functions in plant abiotic stress responses. Plant Cell and Environ. 33:604-611.

研究室URL http://labs.psc.riken.jp/pgnrt/
班員名・所属 溝口 剛 [ ICU 教養学部生命科学デパートメント 教授 ]
研究課題名 個体サイズと花成制御における概日時計とブラシノステロイドホルモンの役割
課題番号 23012037
研究目的

 植物の成長にともない、側生器官として葉を形成する栄養成長メリステムは、生殖成長メリステムに相転換し、花を発生・分化させる。この過程は花成とよばれ、光周期、ジベレリンなどの植物ホルモン、温度の影響を受ける。植物は、周囲の環境条件に応じて、葉などの各器官のサイズを調節し、かつ適切な花成時期を決定しており、何らかの統御機構が働いていることが予想されるが、詳細なメカニズムは明らかにされていない。
 概日時計因子LHYとCCA1がブラシノステロイドホルモン情報伝達系制御に関わることを実証する。また、具体的な制御メカニズム(情報伝達ネットワーク)を明らかにして、ブラシノステロイド応答を介した、時計因子LHY/CCA1による「個体サイズと花成の統合制御機構」を理解する。

主要論文

Fujiwara S, Oda A, Yoshida R, Niinuma K, Miyata K, Tomozoe Y, Tajima T, Nakagawa M, Hayashi K, Coupland G, Mizoguchi T (2008) Circadian clock proteins LHY and CCA1 regulate SVP protein accumulation to control flowering in Arabidopsis. Plant Cell 20, 2960-2971.

Nefissi, R, Natsui, Y, Miyata, K, Oda, A, Hase, Y, Nakagawa, M, Ghorbel, A, Mizoguchi, T (2011) Double loss-of-function mutation in EARLY FLOWERING 3 and CRYPTOCHROME 2 genes delays flowering under continuous light but accelerates it under long-days and short-days: An important role of Arabidopsis CRY2 to accelerate flowering time in continuous light. Journal of Experimental Botany, in press.

Takahashi F, Mizoguchi T*#, Yoshida R, Ichimura K, Shinozaki K (first authors, corresponding authors) (2011). Calmodulin-dependent activation of MAP kinase for ROS homeostasis in Arabidopsis. Molecular Cell 41, 649-660.

研究室URL http://www.gene.tsukuba.ac.jp/activity/kamada_lab.htm