論文紹介

研究代表者

町田泰則

所 属 名古屋大学大学院理学研究科
著 者

Nakagawa A, Takahashi H, Kojima S, Sato N, Ohga K, Cha BY, Woo JT, Nagai K, Horiguchi G, Tsukaya H, Machida Y, Machida C.

論文題目

Berberine enhances defects in the establishment of leaf polarity in asymmetric leaves1 and asymmetric leaves2 of Arabidopsis thaliana.
(ベルベリンはシロイヌナズナのasymmetric leaves1, asymmetric leaves2変異体における葉の向背軸性の異常を亢進する)

発表誌

Plant Mol. Biol. 79: 569-581 (2012)

要 旨

  ベルベリンは、メギ科、ミカン科キハダなどの植物の樹皮に多く含まれるアルカロイドであり、中国や日本において、古くから胃腸薬に使われてきた。一方、ベルベリンは、DNAやRNAにおけるグアニン四重鎖構造などの二次構造に結合することがわかっており、遺伝子の発現に影響を与える場合もあることが知られている。さらに、本論文の共著者である禹らの最近の研究により、ベルベリンや、その誘導体であるコプチシンは、動物の破骨細胞に対して、分化阻害を引き起こすことがわかった。そこで、我々は、モデル植物であるシロイヌナズナの個体や器官の発生・形態形成に対するベルベリンの影響を調べることにした。ベルベリンを添加した培地で野生型のシロイヌナズナを育てると、頻度は低いが、先端が尖った葉が出現することを見いだした。これまでに、このような尖った葉を持つ変異体は、ASYMMETRIC LEAVES1 (AS1) や AS2遺伝子の変異体と掛け合わせると、高頻度に棒状化した葉を出現することが報告されていた。そこで、as1as2 変異体にベルベリンを投与し、葉の形態を観察したところ、図1に示すように、高頻度に葉の棒状化が誘導されることがわかった。このような棒状の葉は、その向軸側(表側)と背軸側(裏側)のどちらかの分化が不全になると形成される。マーカー遺伝子の発現解析の結果、棒状化した葉の周辺は裏側化していることがわかった。つまり、表側化が抑制されていた。AS1AS2 が葉の表側分化を促進する遺伝子であることを考えると、ベルベリンが、グアニン四重鎖構造などに結合することにより未知の遺伝子機能に影響を与えた結果、葉の表側分化を特異的に阻害した可能性が考えられる(図2)。

図1.as2 変異体に対するベルベリンの効果. as1変異体に対しても同様の効果を示す.
図2.葉の発生におけるベルベリンの効果の模式図
研究室HP