論文紹介

研究代表者

平野 博之

所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者

Yoshida, A., Ohmori, Y., Kitano, H., Taguchi-Shiobara, F., and Hirano, H.-Y.
(吉田明希子,大森良弘,北野英己,田口-塩原文緒,平野博之)

論文題目

ABERRANT SPIKELET AND PANICLE1 encoding a TOPLESS-related transcriptional corepressor is involved in regulation of meristem fate in rice.
(TOPLESS様の転写抑制因子をコードするイネABERRANT SPIKELET AND PANICLE1 遺伝子はメリステムの運命決定を制御する.)

発表誌

Plant J. 70: 327-337 (2012).

要 旨

 発生を制御する遺伝子が機能を失うと,特定の成育ステージで一つまたは少数の形質が異常となる場合が多い.一方,単独の遺伝子の変異であっても,あらゆる成育ステージで様々な組織や器官に異常(多面的異常)を示す場合もある.私たちは,イネの栄養生長期から生殖成長期まで,様々な形態と発生異常を示す aberrant spikelet and panicle1 (asp1) 変異体とその遺伝子の解析を通して,多面的な発生異常の一端を明らかにした.

 asp1 変異体は,花(小穂)や花序(穂)の形態異常,花序サイズの減少,葉序の乱れ,腋芽の伸長抑制解除など,様々な発生ステージで多面的な異常を示した.詳しい解析の結果,これらの異常は,生殖成長期のメリステム(頂端分裂組織)の運命決定とその維持と密接に関連していることが明らかとなった(図1).また,葉序や腋芽の伸長も栄養生長期のメリステムの制御が損なわれた結果であると考えられる.ASP1遺伝子を単離したところ,シロイヌナズナのTOPLESSに類似した,転写抑制に関わる因子をコードしていることが明らかとなった.この種の転写抑制因子は特定の塩基配列を認識するのではなく,様々な転写因子と結合し,ターゲット遺伝子周辺のクロマチンの構造を変化させることにより,遺伝子発現を抑えると考えられている.実際,野生型においてヒストンの脱アセチル化酵素の機能を阻害すると,asp1変異体の表現型を模写し,asp1変異体を同様な処理をするとその表現型が昂進されたことから,ASP1タンパク質はヒストンの化学修飾を通して,遺伝子を抑制する可能性が示唆された.

 以上の結果から,asp1変異体に見られる多面的な異常は,発生に関与する数多くの遺伝子の抑制が損なわれたことに起因しているらしい.したがって,植物が正常に発生するためには,それぞれの成育ステージで不必要な遺伝子の発現を適切に抑えることが重要であると考えられる.

図1.asp1変異体の表現型.(A)花序.花の数が減少しており,花序全体が小さい.矢印は,未成熟なまま発生が停止した花を示す.(B)発生初期の花.矢印は,発生が停止しているメリステムを示す.
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/lab.html