論文紹介

研究代表者

塚谷 裕一

所 属 東京大学大学院 理学系研究科
著 者

Hokuto Nakayama, Takahiro Yamaguchi, and Hirokazu Tsukaya
(中山 北斗、山口 貴大、塚谷 裕一)

論文題目

Acquisition and Diversification of Cladodes: Leaf-like Organs in the Genus Asparagus.
Asparagus属に見られる葉状器官・仮葉枝の獲得および多様化)

発表誌

THE PLANT CELL

要 旨

 植物の形態の多様性は、主茎と葉、そしてその葉腋の位置に発生する側芽からなるシュート構造の多様性と言い換えることができます。近年、葉の形態の多様化についての研究は盛んに行なわれるようになりましたが、側芽から発達する側枝の形態の多様化については、ほとんど明らかになっていませんでした。

 単子葉類Asparagus属の植物は葉が鱗片状に退化しており、それらは葉としての機能を果たしていません。その代わりに、その葉腋の位置に仮葉枝(cladode)と呼ばれる葉状の器官を有しており、この器官が光合成の主たる役割を担っています。そして、仮葉枝の形態は属内で多様であることが知られています。この器官は発生位置が側芽の位置でありながら、その形態が葉状であるため、器官の起源、発生様式、および属内における形態の多様化について古くから議論されてきました。

 そこで私たちは、属内の系統樹上で基部に位置し、葉状の仮葉枝を有する種であるA. asparagoidesをモデルに選び、この器官の起源およびその発生過程を明らかにすることを試みました。さらに棒状の仮葉枝を有する種との間で比較解析を行なうことで、形態の多様化の過程を明らかにすべく研究を行ないました。その結果、葉状の仮葉枝の内部構造は向背軸に沿って異なる分化を示し、解剖学的に明確な背腹性を有していること、その発生時にASYMMETRIC LEAVES1やClass III HD-ZIPなど、葉の発生、特に背腹性を司ることの知られている遺伝子群のホモログが発現していることを、明らかにしました。ただし、仮葉枝の維管束の背腹性が葉と異なる点や、シュート頂分裂組織で発現し、葉では発現の見られないclass I KNOXも発現している点などから、仮葉枝の起源は側枝であるが、そこに葉の発生に関わる遺伝子群がco-optされたことにより、葉状の形態となっているというモデルを提唱しました。
さらに、棒状の仮葉枝を有する種であるA. officinalisでは、仮葉枝が全体に背軸側化していることを見いだしました。この結果からは、A. officinalisの仮葉枝では背腹性の確立を失った結果、平面成長できず棒状の形態となった、と解釈できます(図1)。

 以上の結果は、側枝の形態の多様性の一端を明らかにする成果であるとともに、独自の器官の獲得とその多様化には、既存の遺伝子ネットワークをco-optし、さらに改変することが重要であることを示すものです。今後、なぜ葉の発生に関わる遺伝子群が側枝の位置で発現するようになったのか、葉の発生に関わる遺伝子群のうちどれほどの遺伝子が仮葉枝の発生メカニズムにco-optされたのか、などを明らかにすることが課題です。

図1.今回の結果から考えられるAsparagus属の仮葉枝の獲得および形態の多様化の過程を示した模式図。
Asparagus属植物と一般的な植物の体制を模式的に示した。一般的な植物において側枝が発生する位置に、Asparagus属の植物では仮葉枝が発生する。Asparagus属の系統樹上で基部に位置する種(A. asparagoides)の仮葉枝では、側枝に葉の発生に関わる遺伝子群がco-optされることで葉状の形態となり、さらに、進化の過程でそれが全体に背軸側化することで、仮葉枝の形が棒状となった種(A. officinalis)があらわれた、と考えられる。
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/bionev2/jp/index-jp.html