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  • 論文紹介【第8回論文紹介】
  • サイクリン依存性キナーゼによるキネシン様タンパク質とMAPKKKのリン酸化は植物における細胞質分裂への移行に関わっている

論文紹介

研究代表者

町田 泰則

所 属 名古屋大学大学院理学研究科
著 者 Michiko Sasabe, Véronique Boudolf, Lieven De Veylder, Dirk Inzé, Pascal Genschikd, Yasunori Machida
(笹部美知子、Véronique Boudolf, Lieven De Veylder, Dirk Inzé, Pascal Genschikd、町田泰則)
論文題目 Phosphorylation of a mitotic kinesin-like protein and a MAPKKK by cyclin-dependent kinases (CDKs) is involved in the transition to cytokinesis in plants
(サイクリン依存性キナーゼによるキネシン様タンパク質とMAPKKKのリン酸化は植物における細胞質分裂への移行に関わっている)
発表誌

Proc Natl Acad Sci USA 108:17844-17849 (2011)

要 旨   細胞質分裂は、複製された核ゲノムと細胞質を正確に二つの娘細胞に分配するための、細胞分裂最後の重要なイベントである。植物の細胞質分裂では、細胞板と呼ばれる隔壁形成により細胞が二分されるが、細胞板形成は微小管を主成分とするフラグモプラストと呼ばれる細胞質分裂装置の中で起こる。我々はこれまでに、タバコとシロイヌナズナを用いて、キネシン様タンパク質 NACK1 とMAPKカスケードから成るNACK-PQR経路が、植物の細胞質分裂の中心的制御系であることを明らかにしてきた(図2 の右半分を参照)。この経路は細胞質分裂時に特異的に活性化され、フラグモプラスト微小管の動的不安定性を引き起こし、フラグモプラストの親細胞壁への拡大伸長を誘導する。この経路は、NACK1とMAPKカスケードの最初のリン酸化酵素であるNPK1 MAPKKKが直接結合により、細胞質分裂時に活性化される。しかし、この活性化を制御する仕組みは未解明であった。
 本研究では、NACK-PQR経路の活性化に、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)が関与していることを見いだした。細胞板形成は染色体の分離が起こるM 期の後期以降に開始されるが、NPK1と活性化因子NACK1両タンパク質は、M期の中期以前から存在している。しかし、両者は、中期まではCDK によりリン酸化されており、互いに結合できないことが判明した。中期を過ぎると、NPK1とNACK1は脱リン酸化され、複合体を形成した。また、NACK1のシロイヌナズナホモログの変異体(atnack1 )に、野生型AtNACK1 遺伝子ゲノムを導入すると、atnack1 の細胞質分裂異常は解消されたが、CDKのリン酸化部位に酸性アミノ酸をコードするような変異を持つAtNACK1 遺伝子は分裂異常を解消できなかった(図1)。これは、リン酸化型NACK1がNPK1の活性化因子として機能できないことを示している。図2では、これらの結果を、模式的に示した。つまり、CDKは、M期中期までは細胞板形成に対して、ブレーキ役を演じていること、その後、脱リン酸化が起こり、NACK- PQR経路が活性化され、細胞板形成が誘導されることがわかった(図2)。
図1.シロイヌナズナatnack1/hinkel 変異体を用いた相補実験
野生型AtNACK1atnack1 変異の細胞質分裂異常(上段中央と右A)を相補した(下段左)が、リン酸化ミミックAtNACK1 は相補できなかった(下段中央と右B)。
図2.細胞周期中期以前におけるCDKによる細胞質分裂の抑制的制御モデル
 CDKはM期中期までNPK1とNACK1をリン酸化し、両タンパク質の結合を阻害している。M期後期になるとCDK活性の急激な低下と、未同定のフォスファターゼの働きにより両タンパク質は脱リン酸化され、相互に結合し、NPK1 MAPKKK を活性化する。その後、NACK-PQR経路の因子(NQK1 MAPKK と NRK1 MAPK) が連続的に活性化され、さらに微小管結合タンパク質MAP65 などがリン酸化され、最終的に細胞板形成が誘導される。今後の課題はフォスファターゼの同定である。
研究室HP http://www.bio.nagoya-u.ac.jp:8001/~yas/b2.html