論文紹介

研究代表者

中島 敬二

所 属 奈良先端科学技術大学院大学・バイオサイエンス研究科
著 者 Takamitsu Waki, Takeshi Hiki, Ryouhei Watanabe, Takashi Hashimoto and Keiji Nakajima
(和氣貴光、日岐武嗣、渡邊涼平、橋本隆、中島敬二)
論文題目 The Arabidopsis RWP-RK protein RKD4 triggers gene expression and pattern formation in early embryogenesis
(シロイヌナズナのRWP-RKタンパク質RKD4は、初期胚発生において遺伝子発現とパターン形成の引き金を引く)
発表誌

Curr Biol 21: 1277-1281 (2011)

要 旨   有性生殖で繁殖する生き物の体は、植物であっても動物であっても、受精卵というたった1つの細胞から作られます。たった1つの細胞が、なぜ誰に教えられることもなく複雑な個体を作り出すことが出来るのか、これは発生生物学の最大の謎といっても過言ではありません。 この論文では、モデル植物のシロイヌナズナにおいて受精卵の規則正しい分裂を制御する遺伝子を報告しています。RKD4 と名付けられたこの遺伝子は、他の遺伝子の発現を調節する転写因子をコードしています。興味深いことに、RKD4 は受精後の数日間にだけ発現します。RKD4 を破壊した変異体は、受精卵の細胞分裂がうまく進まず、多くは途中で死んでしまいます。一方、RKD4 を発芽後に強制発現させると、初期胚でしか発現しないはずの遺伝子が多数発現してきます。これらの結果は、RKD4 が受精卵の分裂に必要な多くの遺伝子を調節していることを示しています。 さらに面白いことに、RKD4 の強制発現は根や葉にたくさんの胚を生じさせます。つまり、RKD4 は成体の細胞(体細胞)を胚の状態へとリセットすることができるのです。この現象は動物の人工多能性幹細胞(iPS細胞)とよく似ています。RKD4 をうまく使えば、有用な植物株や希少な植物種を効率よく繁殖させることができるかもしれません。
奈良先端科学技術大学院大学のHPに、もう少し詳しい解説を載せています。)
図1.
研究室HP http://bsw3.naist.jp/hashimoto/hashimoto.html