論文紹介

研究代表者

塚谷 裕一

所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Ali Ferjani, Shoji Segami, Gorou Horiguchi, Yukari Muto, Masayoshi Maeshima, and Hirokazu Tsukaya
(フェルジャニ アリ、瀬上紹嗣、堀口吾朗、武藤由香里、前島正義、塚谷裕一)
論文題目 Keep an Eye on PPi: The Vacuolar-Type H+-Pyrophosphatase Regulates Postgerminative Development in Arabidopsis.
(液胞型プロトンピロホスプァターゼはシロイヌナズナの発芽後の初期生育を制御する)
発表誌

Plant Cell 23, 2895-2908 (2011) doi: 10.1105/tpc.111.085415

要 旨   発芽時に種子に蓄えられた脂質は、速やかに分解され、ショ糖へと変換することで、芽生えの発育を支えています。それと同時に、代謝が活発になるため、その副産物としてピロリン酸(PPi)が蓄積します。植物では、液胞膜局在型PPi分解酵素であるAVP1/FUGU5はPPiの加水分解と液胞の酸性化という2つのはたらきを持っています。そのそれぞれの機能の役割についてはよく分かっていませんでした。
 今回、私たちは、実験材料にモデル植物であるシロイヌナズナを用いて、まずPPiの分解酵素の機能が欠損したfugu5-1 変異株について詳細に調べました。そこで、fugu5 変異体にパン酵母のPPi分解酵素を導入することにしました。パン酵母のPPi分解酵素は、植物の場合と違って、PPi分解のみの機能を持ち、液胞内の酸性化を行わない性質があります。しかしこれをはたらかせたfugu5 変異体は、完全に表現型を回復しました(図1)。これは、発芽後の成長において、PPiの除去機能が重要であることを示しています。この発見は、動植物を通して初めての成果であり、生物におけるPPiの分解酵素生理機能解明の一里塚となります。さらに、AVP1/FUGU5による液胞の酸性化こそが重要であるというこれまでの誤った報告(Li et al., 2005,Science)を根本から正し、植物のみならず他の生物におけるPPi分解酵素の生理機能を解明する突破口となりました。また応用的には、今回の遺伝子導入において、PPiの分解による芽生えの成長促進が認められたことから、成長促進効果によるバイオマスの増大などへの寄与が期待されます。
図1.A野生型(左上)、fugu5-1 変異体(右上)、パン酵母のピロリン酸分解酵素を導入したfugu5-1 変異株(下段左右)。播種後一週間の芽生えの写真。正常な子葉は"うちわ型"(左上)の丸い形なのに対して、fugu5-1 変異体ではやや細長い形になる(右上)。酵母のピロリン酸分解酵素を導入した株では、この子葉の形状は回復しむしろ大きくなった(下段左右)。スケール:2 mm。
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/bionev2/jp/index-jp.html