論文紹介

研究代表者

町田 泰則

所 属

名古屋大学大学院理学研究科

著 者

Michiko Sasabe, Ken Kosetsu, Mikiko Hidaka, Akinori Murase and Yasunori Machida
(笹部美知子、幸節健、日高美希子、村瀬陽典、町田泰則)

論文題目

Arabidopsis thaliana MAP65-1 and MAP65-2 function redundantly with MAP65-3/PLEIADE in cytokinesis downstream of MPK4
(シロイヌナズナMAP65-1とMAP65-2はMPK4の下流でMAP65-3と重複して細胞質分裂に関与する)

発表誌

Plant Signaling & Behavior, 6: 743-747 (2011)

要 旨  植物の細胞質分裂は、細胞板と呼ばれる隔壁が細胞の内側から外側に拡大成長することにより起こる。この動的なイベントは、主に微小管からなるフラグモプラストと呼ばれる細胞質分裂装置によりコントロールされている。我々はこれまでに、キネシン様タンパク質であるNACK1とMAPキナーゼ(MAPK)カスケードによって構成されるNACK-PQR経路が、植物において細胞質分裂の鍵となる制御系として機能していることを明らかにしてきた。すでに、タバコにおいては微小管結合タンパク質、MAP65がこの経路の下流因子として同定され、MAPKによるMAP65のリン酸化がフラグモプラストの拡大成長の促進に寄与することを報告しているが、シロイヌナズナのNACK-PQR経路の下流で働いている因子については不明であった。最近、我々は、シロイヌナズナのNACK-PQR経路の最下流のMAPKがMPK4であること、MPK4の基質の一つがタバコのMAP65と同じファミリーに属するAtMAP65-3/PLEIADE (PLE)であることを示した(Kosetsu et al. 2010)。シロイヌナズナには9つのMAP65ファミリーのメンバーが存在するが、今回、その中でAtMAP65-1とAtMAP65-2もAtMAP65-3と重複してMPK4の下流で細胞質分裂を制御している可能性を報告した。細胞質分裂時、フラグモプラストに局在するAtMAP65-1 と AtMAP65-2は、in vitroでMPK4によってリン酸化された(図A)。atmap65-1atmap65-2 変異体、及びatmap65-1 atmap65-2 二重変異体は野生型の表現型を示したが、atmap65-1 atmap65-2atmap65-2 atmap65-3 二重変異体はatmap65-3 変異体より重篤な細胞質分裂の異常と成長抑制が観察された(図B, C)。このことから、AtMAP65-1とAtMAP65-2はAtMAP65-3と重複して細胞質分裂の制御を行っていると考えられた。これらのタンパク質がMPK4の基質となっていることを考えると、シロイヌナズナにおいても、タバコと同様に、MAP65がNACK-PQR経路の下流で細胞質分裂の制御に関わっている可能性が示唆される。(Kosetsu et al. Plant Cell 22: 3778-3790, 2010)
図 AtMAP65タンパク質のMPK4によるリン酸化とAtMAP65遺伝子の変異の効果
AtMAP65-1とAtMAP65-2はMPK4によってin vitro でリン酸化された (A)。シロイヌナズナのatmap65-1 atmap65-3 二重変異体、及びatmap65-2 atmap65-3 二重変異体 はatmap65-3 変異体より矮小な表現型を示した (B)。シロイヌナズナのatmap65-3 変異体の根では、不完全な細胞板を持つ細胞質分裂異常を示す細胞が多数観察されるが(C-b)、同時にAtMAP65-1遺伝子、もしくはAtMAP65-2遺伝子に変異が入ると、より重篤な異常を示す細胞板が観察された(C-c, d)。 。

研究室HP http://www.bio.nagoya-u.ac.jp:8001/~yas/b2.html