論文紹介

研究代表者

澤 進一郎

所 属

熊本大学大学院自然科学研究科

著 者

Shigeyuki Betsuyaku, Fuminori Takahashi, Atsuko Kinoshita, Hiroki Miwa, Kazuo Shinozaki, Hiroo Fukuda and Shinichiro Sawa
(別役重之、高橋史憲、木下温子、三輪大樹、篠崎一雄、福田裕穂、澤進一郎)

論文題目

Mitogen-Activated Protein Kinase regulated by the CLAVATA receptors contributes to the shoot apical meristem homeostasis.
(CLAVATA受容体によって制御されるMAPKが茎頂分裂組織の恒常性維持に寄与する。)

発表誌

Plant Cell Physiol, 2011 vol. 52 (1) pp. 14-29

要 旨  アラビドプシスの茎長分裂組織(SAM)においては、CLAVATA(CLV)経路がSAM幹細胞集団のサイズ制御を担っている。そこでは、分泌型ペプチドリガンドとして機能するCLV3がCLV1、 CLV2-SUPPRESSOR OF LLP1-2 (SOL2)/CORYNE (CRN)、RECEPTOR-LIKE PROTEIN KINASE 2 (RPK2)/TOADSTOOL 2 (TOAD2)からなる3つの受容体キナーゼ複合体を介して転写因子WUSCHELの発現を負に制御している事が遺伝学的に知られていたが、その詳細な分子機構については未知であった。

 そこで我々は、リン酸化シグナリングのCLV経路への寄与に関して調査した。まず、ベンサミアナを用いて上記3つの受容体複合体がSOL2/CRNを介して巨大複合体を構成しうることを示した。さらに、CLV1がCLV3依存的にリン酸化されることを明らかとし、またそのリン酸化状態がCLV1に結合しうる他のCLV受容体によって影響されている可能性を示した(図1A)。次に、シロイヌナズナやベンサミアナを用いてCLVシグナリングとMAPK活性との相関を調査した結果、MPK6がCLV3によって活性化されること、またその活性が各CLV受容体によって様々な影響を受ける事を示した(図1A、B)。MPK6の負の制御因子と考えられたCLV1に注目し、MPK6の上流キナーゼであるMKK4活性を一過的に制御出来る植物を作出したところ、MKK4活性を抑制することでclv1表現型を相補できる事を見いだし、CLV1によるMPK6抑制がCLVシグナル系で何らかの重要な意味を持つ事を示した(図2)。以上のことより、CLV受容体群によってMAPK活性のバランスが適切に維持されることがSAMの恒常性維持に重要である可能性が示唆された。
図1 CLV3はMPK6を活性化し、各CLV受容体はMPK6にそれぞれ異なる影響を与える。
A. ベンサミアナにおいて、各CLV受容体をCLV3存在/非存在下で発現させ、実験区ごとに各受容体のウェスタンブロット解析およびin-gel kinaseアッセイを行った。In-gel kinaseアッセイにおいて変動が見られた、ベンサミアナのMPK6に相当すると考えられる46 kDaキナーゼの相対活性値をグラフ表示した。CLV3依存的なCLV1バンドシフトが見られるが、このバンドシフトがフォスファターゼ感受性である事は原著のFig.5を参照していただきたい。
B. シロイヌナズナにおいて、野生型、clv1、clv2、clv1 clv2各変異体にCLV3ペプチド処理/モック処理(30分)を行い、in-gel kinase assay、およびMPK6特異的抗体を用いた免疫沈降キナーゼアッセイ、MPK6抗体を用いた通常のウェスタンブロットを行った。MPK6活性相対値をグラフに示した。
図2 下流MPK活性を抑制する作用を示すアミノ酸置換を持つMKK4-Kinase Negative(KN)をデキサメタゾン(DEX)誘導型プロモーター制御下で発現するclv1変異体を作出した。その形質転換体の花芽において、一過的なDEX処理を行い、MKK4-KNを誘導したところ、影響を受けた果実のclv1表現型が回復した(囲み写真*印。*が付いていないものは同形質転換体のDEX影響を受けていない花芽由来の果実で、典型的なclv1表現型が見られる。)。

研究室HP http://www.sci.kumamoto-u.ac.jp/~sawa/index.html