論文紹介

研究代表者

関 原明

所 属

植物科学研究センター
植物ゲノム発現研究チーム

著 者

Taiko K. To, Jong-Myong Kim, Akihiro Matsui, Yukio Kurihara, Taeko Morosawa, Junko Ishida, Maho Tanaka, Takaho A. Endo, Tetsuji Kakutani, Tetsuro Toyoda, Hiroshi Kimura, Shigeyuki Yokoyama, Kazuo Shinozaki, Motoaki Seki.
(藤 泰子、金 鍾明、松井章浩、栗原志夫、諸澤妙子、石田順子、田中真帆、遠藤高帆、角谷徹仁、木村 宏、横山茂之、篠崎一雄、関 原明)

論文題目

Arabidopsis HDA6 regulates locus-directed heterochromatin silencing in cooperation with MET1.
(シロイヌナズナの脱アセチル化酵素HDA6はMET1と協調しながら局所的なヘテロクロマチン抑制を制御する)

発表誌

PLoS Genetics 7(4)号、e1002055 (2011)

要 旨  植物をはじめとする真核生物の遺伝子発現抑制には、エピジェネティックな化学修飾であるヒストン修飾とDNAメチル化が関与することが知られている。しかし、ヒストン修飾やDNAメチル化がどのように連携しながら、トランスポゾンなどの有害DNAや遺伝子の発現を抑制・不活性化するのか、その詳細なメカニズムはよくわかっていない。
 我々は、シロイヌナズナのヒストン脱アセチル化酵素HDA6の機能に着目し、hda6遺伝子変異植物体を用いた遺伝学的、および、クロマチン免疫沈降法を用いた生化学的解析により、HDA6によるヒストンタンパク質の脱アセチル化を介した、ヘテロクロマチン領域の抑制•不活性化メカニズムを明らかにした。HDA6により直接不活性化されるトランスポゾンを含む特定の遺伝子領域では、HDA6の機能欠損に伴い、標的遺伝子の発現が誘導されるとともに、遺伝子活性化の指標となるヒストンタンパク質のアセチル化が蓄積することがわかった。また、これら領域の不活性化には、HDA6とDNAメチル化酵素MET1が協調的に作用することを見いだした。このことから、植物ゲノムにおけるトランスポゾンなどの有害DNAの抑制には、ヒストン脱アセチル化および DNAメチル化のいずれもが必須であることが明らかとなった。また、これら因子は抑制メカニズムの初期段階で機能し、完全な遺伝子抑制状態の基礎を構築すると考えられた。
図1 HDA6とMET1の協調作用による遺伝子抑制機構モデル
遺伝子およびトランスポゾン抑制の第一段階として、HDA6による標的領域上でのヒストン脱アセチル化とMET1によるDNAメチル化が協調的に起こる。その後、DNAメチル化酵素CMT3やヒストンメチル化酵素などのエピジェネティックな因子の作用により、さらに抑制の度合いが強まると考えられる。

研究室HP http://labs.psc.riken.jp/pgnrt/