論文紹介

研究代表者 平野博之 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Toriba, T., Suzaki, T., Yamaguchi, T., Ohmori, Y., Tsukaya, H., and Hirano, H.-Y.
(鳥羽大陽、寿崎拓哉、山口貴大、大森良弘、塚谷裕一、平野博之)
論文題目 Distinct regulation of adaxial-abaxial polarity in anther patterning in rice
(イネの葯のパターン形成におけるユニークな向背軸極性の制御メカニズム)
発表誌 Plant Cell 22:1452-1462
要 旨   葉や花弁・雄蕊などの花器官は、メリステムから分化し、側生器官と呼ばれている。側生器官がきちんと形成されるためには、先端-基部軸、中央-側方軸、向背軸の3つの軸が正しく確立することが重要である。向背軸は、葉では表と裏に対応し、メリステムに近い方を向軸側その逆を背軸側という。この向背軸の極性確立メカニズは、シロイヌナズナの葉を対象にして、遺伝子の機能面から多くの知見が集積している。しかし、筒状の花粉嚢からなる葯と棒状の花糸から構成される雄蕊に関しては、どの部分が向軸あるいは背軸面に対応するのかということも含め、その極性確立の発生メカニズムは全く未解明であった。
 私たちは、イネのrod-like lemma (rol ) 変異体(図1)と向背軸極性に関わる遺伝子の時間的・空間的発現パターンを解析し、雄蕊における向背軸極性確立のメカニズムの解明を行った。その結果、雄蕊においては、葯と花糸で独立に向背軸極性が確立すること、葯の発生時には極性軸の転換が起こること、花糸は完全に背軸化されることなど、葉では見られないユニークな制御があることが明らかとなった(図2)。rol 変異の原因遺伝子を単離した結果、RNA-dependent RNA polymerase (RdRP) コードしていること、既知のSHL2 遺伝子の弱い変異体であることが判明した。この種のRdRPは、 ta-siRNAという植物に特異的な低分子RNAの生成経路に含まれることから、葯の向背軸の極性転換には、低分子RNAが関与することも示唆された。
図1
図1 向背軸極性の確立が部分的に損なわれた雄蕊。ピンクの部分が向軸側に、青い部分が背軸側に相当する。向背軸の制御が損なわれているために、背軸側(青)の領域が拡大し、1つの半葯(2つの花粉嚢から構成される)が、欠失している。.
図2
図2 雄蕊における向背軸極性の制御モデル
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/jp/index-jp.html