論文紹介

研究代表者 福田裕穂 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Hirakawa Y., Kondo, Y., and Fukuda, H. 
(平川有宇樹 近藤侑貴 福田裕穂)
論文題目 TDIF peptide signaling regulates vascular stem cell proliferation via the wox4 homeobox gene in Arabidopsis.
(シロイヌナズナにおいて、TDIFペプチドはWOX4ホメオボックス遺伝子を介して維管束幹細胞の細胞増殖を調節する)
発表誌 Plant Cell, 22, 2618-2629, 2010.
要 旨   植物の維管束は木部と篩部、さらにその間にある前形成層・形成層から構成されます。この前形成層・形成層は、自らが増殖しながら、木部や篩部の細胞へと分化します。このように、自己複製と分化を調節する働きを併せ持つことから、前形成層・形成層は維管束の幹細胞と考えられています。維管束幹細胞の自己複製の促進と木部細胞への分化の抑制は、篩部でつくられるTDIFペプチドがおこないます(2008.11第2回論文紹介)。このTDIFは維管束幹細胞上のTDR受容体により受け取られ、細胞内にシグナルを伝えます。本論文では、この細胞内シグナル伝達について解析し、シグナルのターゲットである重要な転写因子WOX4を見いだしました。このWOX4は、維管束幹細胞の自己複製の促進と木部細胞への分化の抑制のうち、自己複製の促進を正に制御していることが分かりました。一方で、木部分化の阻害は別の因子が支配していると予想されました。また詳細な突然変異体の解析から、維管束幹細胞の維持には、幹細胞の2つの性質、自己複製能の維持と分化の抑制がともに必要で、この両方が欠けると維管束幹細胞は木部へと消費され、その後の維管束の発達は停止してしまうことが分かりました(図1)。
図1
tdr wox4 2重突然変異体での維管束発達の不全 シロイヌナズナ胚軸の2次成長中の維管束。篩管細胞と道管細胞が隣接して存在し(青枠内)、その間にあった維管束幹細胞が消失している。そのために、その部分からの維管束の発達ができず、ギャップが形成されている。
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/seigyo/lab.html