論文紹介

研究代表者 角谷徹仁 所 属 国立遺伝学研究所
著 者 Soichi Inagaki, Asuka Miura-Kamio, Yasukazu Nakamura, Falong Lu, Xia Cui, Xiaofeng Cao, Hiroshi Kimura, Hidetoshi Saze, and Tetsuji Kakutani 
(稲垣宗一、神尾(三浦)明日香、中村保一、Falong Lu、Xia Cui、Xiaofeng Cao、木村宏、佐瀬英俊、角谷徹仁)
論文題目 Autocatalytic differentiation of epigenetic modifications within the Arabidopsis genome.
(シロイヌナズナのゲノムにおけるエピジェネティックな修飾の自己触媒的分化)
発表誌 EMBO Journal 29: 3496-3506 (2010)
要 旨   多くの真核生物で、トランスポゾンや反復配列のように抑制された配列では、ヒストンH3のリジンの9番目(H3K9)がメチル化されています。活性のある遺伝子からこの修飾が排除される機構は、ほとんど調べられていませんでした。私達はシロイヌナズナを用いて、活性のある遺伝子からのH3K9メチル化排除に IBM1 (increase in BONSAI methylation 1)という蛋白質が必要なことを示しました。 IBM1 遺伝子の突然変異体では、数千の遺伝子でH3K9メチル化が引き起こされます(図)。これにともない、DNAもメチル化されます。 IBM1 の突然変異体におけるH3K9メチル化はH3K9メチル化酵素であるKYPとDNAメチル化酵素CMT3の両方が必要です。このことは、DNAメチル化とH3K9メチル化が相互に依存していることを示唆します。注目すべきことに、 IBM1 は、転写が脱抑制された配列がH3K9のメチル化を失うのを促進します。さらに、転写を妨害するとメチル化が引き起こされ、 IBM1 機能がなくなったのと似た状態になります。活性なクロマチンは、 IBM1 によるH3K9脱メチル化と転写との自己触媒的なループによって安定化されると考えられます。これに対して、不活性なクロマチンもH3K9メチル化とDNAメチル化のループで安定化されます。
図1
図 IBM1 遺伝子の突然変異体と野生型とでH3K9メチル化レベルを比べたもの。
遺伝子を赤い点で、トランスポゾンを黒い点で表した。
研究室HP http://www.nig.ac.jp/labs/AgrGen/home-j.html