論文紹介

研究代表者 町田泰則 所 属 名古屋大学大学院理学研究科
著 者 Ken Kosetsu, Sachihiro Matunaga, Hirofumi Nakagami, Jean Colcombet , Michiko Sasabe, Takashi Soyano, Yuji Takahashi, Heribert Hirt and Yasunori Machida
(幸節健、松永幸大、中神弘史、ジャン・Colcombet、笹部美知子、征矢野敬、高橋裕治、ヘリベルト・ヒルト、町田泰則)
論文題目 The MAP kinase MPK4 is required for cytokinesis in Arabidopsis thaliana
(MPK4 MAP キナーゼがシロイヌナズナの細胞質分裂に必要である)
発表誌 The Plant Cell November 23, online (2010).
要 旨   細胞質分裂は、複製された遺伝情報と細胞質を正確に娘細胞に分配するための重要な過程である。植物の細胞質分裂は、娘染色体セットの間に細胞板が形成され、それが細胞の外側に向かって拡大成長し、親細胞壁に到達することによって完了する。 MAPキナーゼ (MAPK)カスケードは、真核生物に広く保存される情報伝達経路の一つで、一般にMAPKキナーゼキナーゼ (MAPKKK)、MAPKキナーゼ (MAPKK)、MAPKの3つのプロテインキナーゼによって構成され、これらの一連のリン酸化反応によって下流へ情報が伝達される。すでに、我々のタバコ培養細胞を用いた研究により、特定の MAPK カスケードが細胞質分裂に関わっていることがわかっている。一方、シロイヌナズナにおいても ANP MAPKKK、MKK6/ANQ MAPKKが細胞質分裂に必須なことが明らかになっている。しかし、20種類ある MAPKのうち、どのMAPKがMKK6/ANQの下流に位置して、細胞板形成を制御しているかは不明であった。
 本研究では、シロイヌナズナのMPK4 MPK がそのような機能を担っていることを示した。つまり、 (1) mpk4 変異体では、不完全な細胞板を持ち多核した細胞が観察された (図1A, 1B)。(2) MPK4のキナーゼ活性は、細胞分裂が盛んな器官で高かった。(3) その活性はMKK6/ANQの変異体では低下していた。(4) 蛍光タンパク質と融合した MPK4は細胞板に局在した (図1C, 1D, 1E)。(5) mpk4 変異体では、細胞板の拡大成長の速度が低下していた (図1F, 1G)。一つ前の高橋らの論文の結果と合わせて考えると、シロイヌナズナにもタバコと同様に、図2に示すようなシグナル経路(NACK-PQR経路と呼ばれている)が存在していると考えられる。この経路は高等植物において細胞板形成を制御している一般的な仕組みかもしれない。
図1
図1 MPK4 遺伝子の変異の効果とタンパク質の細胞内局在
 変異体の子葉細胞では、不完全な細胞板(矢印)と複数の核(矢尻)が見られた(野生型:A, 変異体:B)。蛍光タンパク質GFPを融合したMPK4(D)が、F4-64 で染色された細胞板に見られた(C, E)。F4-64 で生細胞における細胞板形成を観察した(野生型:F, 変異体G)。野生型では細胞板(矢印)は15分で親細胞壁に到達したが、変異体では24分たっても到達しなかった。
図2
図2 シロイヌナズナの細胞質分裂を制御しているNACK-PQR経路
 これまでのタバコを用いた研究により、キネシン様タンパク質(KLP)NACK1が MAPKKK と結合して活性化することがわかっている。一つ前の高橋らの研究により、 MKK6/ANQ の活性化には、ANP1 とNACK1/HINKEL (HIK) が必要であることがわかった。今回の研究により、MKK6/ANQ の下流には赤い矢印出示されたような経路であることがわかった。
研究室HP http://www.bio.nagoya-u.ac.jp:8001/~yas/b2.html