論文紹介

研究代表者 上田貴志 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Masaru Fujimoto, Shin-ichi Arimura, Takashi Ueda, Hideki Takanashi, Yoshikazu Hayashi, Akihiko Nakano and Nobuhiro Tsutsumi
(藤本優、有村慎一、上田貴志、高梨秀樹、林嘉禾、中野明彦、堤伸浩)
論文題目

Arabidopsis dynamin-related proteins DRP2B and DRP1A participate together in clathrin-coated vesicle formation during endocytosis.
(シロイヌナズナダイナミン様タンパク質DRP2B とDRP1A はエンドサイトーシス時のクラスリン被覆小胞形成に関与する)

発表誌

Proc. Natl Acad. Sci. U S A. 107, 6094-6099 (2010)

要 旨

 真核細胞内の膜系ダイナミクスを制御する分子の一つとして、ダイナミン様タンパク質(Dynamin-Related Protein,以下DRP)というGTP加水分解タンパク質の一群が知られています。このDRPは、自己重合してリングもしくは螺旋状のポリマーを形成して生体膜に巻きつき、その切断を実行すると考えられています。シロイヌナズナゲノム中にはDRP1〜DRP6まで6種のDRPが存在しますが、エンドサイトーシス小胞の形成に関与する分子種は同定されていませんでした。そこで我々は、全反射照明蛍光顕微鏡と蛍光タンパク質を利用し、細胞膜上のクラスリン被覆小胞形成部位に出現するシロイヌナズナDRPを探索しました。その結果、DRP1およびDRP2という2種のDRPが、細胞膜上でクラスリンと共局在することが分かりました。また、DRP1とDRP2の分子構造は大きく異なるにも関わらず(図A参照)、細胞膜上におけるそれらの局在様式と挙動はほぼ一致し、さらに結合する可能性があることも明らかにしました。このことは、植物のエンドサイトーシス小胞形成に、異なる2種のDRPが協調して機能する可能性を示唆しています(図B参照)。このような構造の異なる2種のDRPが同一の生体膜切断に関与するといった現象は他の生物種を含めて大変珍しく、植物はその進化の過程で固有の生体膜切断機構を獲得してきたのかもしれません。



図A: シロイヌナズナダイナミン様タンパク質DRP1とDRP2の分子構造
膜脂質への結合に重要なPleckstrin homology domainや小胞形成部位への局在化に重要なProline rich domainはDRP2にのみ存在する
図B: シロイヌナズナダイナミン様タンパク質DRP1とDRP2の分子構造
本研究の成果から予想される植物エンドサイトーシス小胞形成時の細胞膜切断機構の一例

研究室HP

http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/faculty/tchr_list/uedatakeshi.shtml