論文紹介

研究代表者 平野博之 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Yoshida, A., Suzaki, T., Tanaka, W., and Hirano, H.-Y.
(吉田明希子、寿崎拓哉、田中若奈、平野博之)
論文題目

The homeotic gene LONG STERILE LEMMA (G1) specifies sterile lemma identity in the rice spikelet.
(ホメオティック遺伝子LONG STERILE LEMMA (G1) は、イネ小穂の護頴アイデンティティーを決定する。)

発表誌 Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106: 20103-20108,2009.
要 旨

 ABCモデルに代表されるように、花の発生機構は被子植物に広く保存されていることが示されてきています。しかしながら、特定の植物種に特異的な花器官や構造についての理解は、非常に乏しいといわざるを得ません。
イネの雄ずいや雌ずいは、外穎 (lemma)と内穎 (palea) という器官によって包まれており、外穎と内穎の基部には、小さな葉のような器官があり、護穎(不稔外穎; sterile lemma)とよばれています。この護頴は、イネ科の中でもイネ属のみに見られる特徴的な器官です。私たちは、護穎が大きくなるlong sterile lemma1 (g1) 変異体に着目して研究を進め、この変異体では護穎が外穎へとホメオティックに変化していること示しました(図1)。 G1遺伝子を単離したところ、機能未知の保存されたドメイン(ALOGドメインと命名)をもっているタンパク質をコードしていることが明らかとなりました。また、G1タンパク質は核に局在し、転写制御に関係することが示唆されました。G1は護穎で強く発現しており、外穎の特徴を負に制御し護穎のアイデンティティーを決定していると考えられます。私たちは、G1遺伝子が小穂形態の進化に重要な役割を果たしてきたと推測しています(図2)。

 

図1:g1変異体では、護穎が外穎へとホメオティックに転換する。 野生型小穂(左)とg1変異体の小穂(右)。


図2:イネの花のモデル図 (Arber (1934)に基づいて作図)。イネはもともと1小穂3小花であったが、進化の過程で、側生の小花が退化し、唯一外穎のみが残った(中間型)。G1遺伝子は、外穎のアイデンティティーを抑制することにより、現生型の護穎へと形態が進化するのに重要な役割を果たしてきたと考えられる。g1変異体は、あたかも中間型への先祖返りのように見える。

研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/lab.html