著 者 |
Haruko Ueda, Etsuo Yokota, Natsumaro Kutsuna, Tomoo Shimada,Kentaro Tamura, Teruo Shimmen, Seiichiro Hasezawa,Valerian V. Dolja, Ikuko Hara-Nishimura
(上田晴子, 横田悦雄, 朽名夏麿, 嶋田知生,田村謙太郎, 新免輝男, 馳澤盛一郎,Valerian V. Dolja, 西村いくこ) |
要 旨 |
植物細胞の中ではさまざまなオルガネラが動き回っている.これらの多くはモータータンパク質のミオシンが,細胞骨格系のアクチン繊維の上を滑ることによって起こっていると考えられる.このうち小胞体については,細胞内をネットワーク状に張り巡らされていることから,その動きが他のオルガネラにも大きく影響すると考えられるが,流動に関与する遺伝子はわかっていなかった.
そこで我々はシロイヌナズナ表皮細胞を用いて,小胞体の動きを支えるミオシン遺伝子の探索と評価を行なった.小胞体は速やかに流動し,刻々と変形するため,追跡して動きを測定することは困難だった.そこでスピニングディスク式共焦点レーザー顕微鏡を用いて,50ミリ秒毎の高速な連続撮影により小胞体流動を捉えた.さらに,流動がほぼ等速であることを活用し,約100コマの動画像から流速の分布を安定して測定できるソフトウェアを開発した.
これにより小胞体流動は,主にミオシンXI-K,補助的にミオシンMYA2/XI-2が担っていることが定量的に明らかになった(図1).また,これらの遺伝子を欠損すると,アクチン繊維の配向方向と平行性が乱れることがわかった(図2).これらの結果から,小胞体,ミオシン,アクチンの相互作用による流動方向に沿ったアクチン繊維束の構築が,速やかな小胞体流動を支えているのではないかと推測される.
図1 上段: シロイヌナズナ表皮細胞の細胞表層付近における小胞体の分布(左)と,本研究で開発したソフトウェアで求めた流速分布マップ(右).下段: 流速分布マップから求めた各種ミオシン遺伝子の欠損変異体における小胞体流動の最大速度と平均速度.GFP-h: ミオシン遺伝子に変異のない細胞.*: P <0.05, **: P < 0.001 (t-検定による).
図2: 上段: シロイヌナズナ表皮細胞の細胞表層付近におけるアクチン繊維の配向.ミオシン変異体に変異のない野生型の細胞(左)ではアクチン繊維は互いにほぼ平行に配向し,その一部は束化しているが,ミオシンXI-KとMYA2の2重変異体ではいずれも見られない(右).下段: 画像処理によりアクチン繊維の自動抽出後,細胞長軸方向に対する平均角度と,繊維の平行性を定量した結果.*:P < 0.05, **: P < 0.001 (t-検定による). |