論文紹介

研究代表者 塚谷 裕一 所 属 東京大学大学院理学系研究科及び
基礎生物学研究所
著 者 Eiko Kawamura, Gorou Horiguchi and Hirokazu Tsukaya
(河村英子、堀口吾朗、塚谷裕一)
論文題目 Mechanisms of leaf tooth formation in Arabidopsis
(シロイヌナズナの葉の鋸歯形成メカニズム)
発表誌 The Plant Journal 62: 429-441 (2010)
要 旨

 葉の特性の一つに、縁にあるギザギザ、つまり鋸歯(きょし)の数と大きさがあります。鋸歯は葉の縁に特定の間隔を置いて作られるのが普通です。そのことから以前より、葉が先端から基部に向かって順に作られる際、何か周期性のようなものがあると想像されていましたが、具体的な仕組みは全く理解されていませんでした。唯一、シロイヌナズナでは以前から、CUC2という遺伝子が機能を失うと、葉の縁に鋸歯がなくなることが知られています。CUC2は胚が子葉を作る際、その2枚の子葉の境目に働きかけて、1枚ずつ切り分ける働きがあります。その連想から、鋸歯はCUC2によって葉の縁に刻みが入り、谷間ができた結果なのだろう、と想像されていました。
今回私たちは、シロイヌナズナの葉の縁の発生を詳細に観察すると共に、cuc2変異体など鋸歯に異常を示す材料と比較することで、まず、従来の理解が間違っていることを見いだしました。なんと、cuc2変異体の葉の縁がなめらかになるのは、鋸歯間の谷間がなくなったからではなく、むしろ鋸歯が突出しなかった、つまり山が盛り上がらなかったからだったのです(図)。またその鋸歯のできる位置は、葉の原基の縁を流れるオーキシンが集まった場所に相当することも分かりました。鋸歯ごとの細胞の並び方も、葉でオーキシンを流すしくみの異常で変わってしまうことも分かりました。
今回分かった点をまとめてみると、鋸歯のでき方は、以下のようなものであると考えられます。つまり、葉の縁を先端から基部に向かってオーキシンが流れます。そうすると、ところどころでオーキシンが溜まる場所が自然と生じます。そのオーキシンが集まった場所が、将来の鋸歯の先端に当たる部分となり、その両脇をCUC2遺伝子がいわば固めることで、鋸歯の位置が確定します。こうしてオーキシンとCUC2遺伝子が協調する結果、細胞が増殖して盛り上がり、鋸歯となる、というわけです。この、オーキシンが場所を決め、そしてその場所が成長して盛り上がるというやりかたは、茎の先端の分裂組織で、茎に沿って葉が順にできる仕組みとよく似ています。おそらく基本的に同じ仕組みを使って、植物は茎の先端に葉を作り、そして個々の葉に鋸歯の刻みを入れているのでしょう。




研究室HP http://www.nibb.ac.jp/%7Ebioenv2/indexj.html
http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/bionev2/top_j.html