論文紹介

研究代表者 町田泰則 所 属 名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻
著 者 Tamara Krupnova, Michiko Sasabe, Luam Ghebreghiorghis, Christian W. Gruber, Takahiro Hamada, Verena Dehme, Georg Strompen, York-Dieter Stierhof, Wolfgang Lukowitz, Birgit Kemmerling, Yasunori Machida, Takashi Hashimoto, Ulrike Mayer, and Gerd Jürgens
(日本人と責任著者*:笹部美知子、濱田隆宏、町田泰則、橋本隆、ゲルド・ユルゲンス*
論文題目

Microtubule-associated kinase-like protein RUNKEL needed for cell plate expansion in Arabidopsis cytokinesis
(シロイヌナズナの細胞質分裂に必要な RUNKEL 蛋白質は微小管に結合し蛋白質リン酸化酵素様の構造をしている)

発表誌 Current Biology 19, 518-523 (2009)
要 旨  細胞分裂は、生物が示す最も根源的で普遍的なプロセスである。したがって、このプロセスの仕組みを理解することは、生物学の重要課題の一つである。細胞質分裂は、細胞分裂サイクルの最終段階で細胞質を二分するステップである。この過程は、他の過程とは異なり、生物種により多様であり、それぞれの生物種における個別的な研究が必要である。植物の細胞質分裂は、細胞板という「隔壁」が細胞の内側から外側へ向かって形成されることにより起こる。このような「隔壁」は、植物固有のフラグモプラストという微小管の束が細胞の内側で形成され、それが遠心的に広がっていく時にその内側で形成される(図1)。我々は、このような仕切りの形成には植物固有の MAP キナーゼカスケードの機能が必須であることを明らかにしている。
 今回は、ドイツのゲルド・ユルゲンス教授の研究室と共同で、この過程には RUNKEL (RUK) と名付けた 152 KDa の新奇なタンパク質が必要であることを示した。RUK 遺伝子が欠損するとフラグモプラストの構築が異常になり、細胞板の形も不全となり、その形成が停止した。RUK 蛋白質 は、微小管結合領域とセリン/トレオニンキナーゼ様の領域を保持しており、類似している蛋白質は、植物から動物まで広く存在しているらしい。この二つの領域は、RUKの機能にとって必須であり、RUK は in vitro で実際に微小管に結合し、in vivo でもG2-Mに見られる微小管束、スピンドル、フラグモプラスト全体に局在した。さらに、分子遺伝学的研究から、RUKが細胞質分裂の時期に必要であることがわかった。しかし、興味深いことに、キナーゼ様領域の欠失変異体は ruk 変異を相補できなかったが、ATP結合部位の点突然変異体は ruk 変異(の幼植物の致死性)を相補した。また、in vitro の生化学的実験では、RUK 蛋白質のリン酸化活性は検出できなかった。つまり、RUK蛋白質は、キナーゼ活性により細胞板形成やフラグモプラスト微小管の構築制御に関わるのではなく、これらの過程に対して何らかの構造的(アダプターのような)場を提供している可能性が考えられる。
図1
図1 フラグモプラストにおける細胞板形成の模式図
 フラグモプラスト微小管は緑色で、細胞板はグレーで示す。RUK蛋白質は、このような微小管と共局在した。また、ruk 変異体の分裂細胞を観察すると、細胞板形成が停止していた。
研究室HP http://www.bio.nagoya-u.ac.jp:8001/~yas/b2.html