論文紹介

研究代表者 小柴共一 所 属 1 首都大学東京大学院・理工学研究科・生命科学専攻
2 岡山理科大学・理学部・生物化学科
著 者 Takeshi Nishimura, Hitomi Nakano, Ken-ichiro Hayashi, Chiharu Niwa, Tomokazu Koshiba.
(西村岳志1、中野仁美1、林謙一郎2、丹羽理陽1、小柴共一1
論文題目 Differential Downward Stream of Auxin Synthesized at the Tip Has a Key Role in Gravitropic Curvature via TIR1/AFBs-Mediated Auxin Signaling Pathways.
(トウモロコシ幼葉鞘先端で合成されるIAA がTIR1/AFBs による遺伝子発現を介して重力屈曲を引き起こす)
発表誌 Plant Cell Physiol. 2009, 50: 1874-1885
要 旨  トウモロコシ幼葉鞘は古くからIAA (Indole-3-acetic acid; 天然オーキシン) の生合成や屈曲反応の研究に用いられてきており、本論文では、1) IAA は幼葉鞘先端で合成され、そこからZmPIN1 (IAA 輸送タンパク)によって細胞を伝って輸送されること、2) 重力刺激後そのIAA の分布が変化すること(重力側により多く分布)、3) オーキシン受容体(TIR1/AFBs) の働きを介して重力屈曲を引き起こすこと、を明らかにした。
 NPA (IAA 輸送阻害剤) を幼葉鞘先端に処理すると先端からのIAA の供給が断たれる。そこでこの処理後に重力屈曲実験を行ったところ、重力屈曲は完全に阻害され重力屈曲を引き起こすためには先端から供給されるIAAが必須であることが示された。実際、IAA の分布の変化を詳細に測定したところ、重力刺激後約30分で下側に多く分布しており、また、その分布に対応してIAA 誘導性遺伝子(ZmSAUR2)の発現量がすみやかに制御されていることがわかった。さらに、オーキシン受容体(TIR1/AFBs) の阻害剤であるPEO-IAAがこの遺伝子の発現を抑えるとともに、重力屈曲も阻害することが示された。以上の結果より、幼葉鞘先端から輸送されるIAA の不均等分布による遺伝子発現の制御のもとで重力屈曲が引き起こされることが明確になった。
図1
図1 
(A) 4日目トウモロコシ芽生え。 (B) トウモロコシ芽生えの重力屈曲。この実験の範囲では、幼葉鞘のみが重力幼葉鞘のみを切り出しても重力屈曲が観察される。また、幼葉鞘先端を切除すると、重力屈曲は弱くなる。 a; 無傷の植物 b; 幼葉鞘先端2 mm 除去 c; 幼葉鞘先端15 mm 除去 d; 幼葉鞘全体除去
図1

図2
(A)幼葉鞘基部側におけるZmPIN1 の細胞内局在。 主に細胞の基底部にZmPIN1 は局在しており、IAA は先端から基部方向へ極性を持って輸送される。
(B) 重力屈曲におけるNPA の影響。NPA を処理した部位(白破線)より基部側の重力屈曲は阻害される。

研究室HP http://dept.biol.metro-u.ac.jp/labo.asp?ID=horcel