論文紹介

研究代表者 杉本慶子 所 属 理化学研究所植物科学研究センター
著 者 Takashi Ishida, Sumire Fujiwara, Kenji Miura, Nicola Stacey, Mika Yoshimura, Katja Schneider, Sumiko Adachi, Kazunori Minamisawa, Masaaki Umeda, Keiko Sugimoto.
(石田喬志、藤原すみれ、三浦謙治、ニコラ ステイシー、吉村美香、カティア シュナイダー、安達澄子、南澤一徳、梅田正明、杉本慶子)
論文題目 SUMO E3 ligase HIGH PLOIDY2 regulates endocycle onset and meristem maintenance in Arabidopsis.
(シロイナズナのSUMO E3 ligaseをコードするHIGH PLOIDY2は核内倍加周期への移行とメリステムの維持過程を制御する。)
発表誌 Plant Cell・ 21・2284-2297・2009
要 旨  多くの植物細胞は生長過程においてDNA複製と細胞分裂が交互に起きる細胞分裂周期 (Mitotic cell cycle) を経た後、細胞分裂を伴わずDNA複製のみ起こる核内倍加周期 (Endocycle) へと移行する。こうした核内倍加周期への移行は細胞が最終的な分化や伸長生長を開始する時期に起きることが知られ、植物の生長を制御する重要な過程であるにもかかわらずこの移行がどのように制御されているかは分かっていない。今回の論文では核に局在するHIGH PLOIDY2 (HPY2) というSUMO E3 ligaseがシロイナズナのメリステムにおいて核内倍加周期への移行を抑制していることを解明した。HPY2の機能を欠損したhpy2変異体ではメリステム細胞が通常よりも早く核内倍加周期に移行してしまうため、メリステムが維持されず植物体全体が極度に矮小化してしまう (図1)。HPY2タンパク質にはSUMO E3 ligaseの機能ドメインであるSP-RINGドメインが保存されているが、このドメインがin vivo及びin vitroでのHPY2の機能に必要とされることが明らかになった。また、HPY2タンパク質は主にメリステムの分裂細胞で発現しており、HPY2はメリステムのパターン形成に関与する転写因子PLETHORA1 (PLT1)及びPLT2の下流で機能する。これらの結果から、HPY2によるSUMO化翻訳後修飾機構が、PLT依存的なシグナル経路を介して細胞周期の転換及びメリステムの維持過程を制御することが明らかになった(図2)。
図1
図1 HPY2は細胞分裂を調節する。
左側は発芽後10日目の幼植物体。hpy2突然変異体では根や葉が生長しないため非常に小さくしか育たない。右はサイクリンB-GUSレポーターによって細胞分裂の活性を観察した顕微鏡写真。hpy2では細胞分裂が起こる組織が小さく、活性が低いことが明らかとなった。
図1
図2 PLT-HPY2経路による細胞周期移行制御モデル
PLT遺伝子はオーキシンシグナルに応じて根端メリステムの形成を行う機能を持つことが知られていたが、本研究により、HPY2によるSUMO 修飾制御機構を介して細胞分裂周期の維持、細胞周期への移行制御にも関与していることが明らかとなった。
研究室HP http://labs.psc.riken.jp/cfru/