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  • 論文紹介【第2回論文紹介】
  • エンドウのガン抑制遺伝子産物(retinoblastoma protein)をコードするPsRBR1タンパク質は、
    腋芽が休眠状態から成長に移行する時にリン酸化によって制御されている

論文紹介

研究代表者 森 仁志 所 属 名古屋大学大学院生命農学研究科
著 者 Sae Shimizu-Sato, Yoko Ike, Hitoshi Mori.
(佐藤(志水)佐江、池陽子、森仁志)
論文題目 PsRBR1 encodes a pea retinoblastoma-related protein that is phosphorylated in axillary buds during dormancy-to-growth transition.
(エンドウのガン抑制遺伝子産物(retinoblastoma protein)をコードするPsRBR1タンパク質は、腋芽が休眠状態から成長に移行する時にリン酸化によって制御されている。)
発表誌 Plant Molecular Biology, 66, 125-135, 2008
要 旨  一般的に、植物は頂芽が優先的に成長し腋芽の成長は抑制されている。この現象は頂芽優勢と呼ばれ古くから知られている現象の一つである。頂芽が切除されると休眠していた腋芽は頂芽に代わって直ちに成長を始める。休眠中の腋芽の細胞周期はG1期で抑制されていることは明らかになっているが、その細胞周期抑制機構は不明な点も多い。この論文では細胞周期抑制機構を解明する一つとして、エンドウの休眠腋芽におけるガン抑制遺伝子産物(retinoblastoma protein: pRB)のタンパク質のリン酸化調節と腋芽の細胞周期の抑制・進行との関係を解析した。動物細胞ではpRBがG1/S期進行を抑制しており、pRBはリン酸化によって制御されている。pRBの変異はガンの原因のひとつである。そこでエンドウpRB (RB-related gene:PsRBR1)の抗PsRBR1抗体を用いた解析の結果、PsRBR1タンパク質は休眠中の腋芽、成長を始めた腋芽ともに存在した。32P-無機リン酸をエンドウの腋芽に取り込ませ、免疫沈降法による解析の結果、頂芽切除後すぐにPsRBR1タンパク質がリン酸化されることがわかった。以上の結果から、PsRBR1タンパク質のリン酸化に伴って腋芽の細胞周期が進行すること、腋芽の細胞周期抑制機構は、動物細胞のがん抑制機構と同様な仕組みによって制御されている可能性を示した。
図1図1 PsRBR1タンパク質のリン酸化状態の検出
頂芽切除24時間後の腋芽から抽出したタンパク質をλ-PPaseにより脱リン酸化反応を行い、SDS-PAGEにより分離した。左のゲルは通常のアクリルアミドゲル、右のゲルはビスアクリルアミドの含量を下げたゲルを用いた。このことによりリン酸化タンパク質の検出が容易になる。レーン1、未処理。レーン2、mock処理。レーン3、λ-PPase処理。λ-PPase処理により、分子量の大きいバンドが分子量の最も小さいバンドに収束したことより、PsRBR1タンパク質はリン酸化状態で存在することが明らかになった。
図2
図2 腋芽が休眠状態から成長に移行する時のPsRBR1タンパク質のリン酸化状態を検出した。
(A) 頂芽切除8時間後の腋芽に32P-無機リン酸を取り込ませ、1時間後に腋芽からタンパク質を抽出した。タンパク質抽出液を免疫前血清(レーン2)、抗PsRBR1抗体(レーン3)を用いて免疫沈降を行い、それぞれSDS-PAGEで分離した。免疫沈降前の全タンパク質(レーン1)を示した。
(B) 32P-無機リン酸を腋芽に1時間取り込ませた後、頂芽を切除した。頂芽切除0, 2, 4時間後に腋芽を採取した。腋芽からタンパク質を抽出した後、抗PsRBR1抗体を用いて免疫沈降を行い、それぞれSDS-PAGE (ビス濃度は37.5:1)で分離した(レーン1, 2, 3)。頂芽切除後すぐにPsRBR1タンパク質のリン酸化が増加することがわかる。
研究室HP http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~bunka/MORI-HP/HTML/mori_top.html