論文紹介

研究代表者 出村 拓 所 属 理化学研究所植物科学研究センター
著 者 Masatoshi Yamaguchi, Minoru Kubo, Hiroo Fukuda and Taku Demura.
(山口雅利、久保稔、福田裕穂、出村拓)
論文題目 VASCULAR-RELATED NAC-DOMAIN7 is involved in the differentiation of all types of xylem vessels in Arabidopsis roots and shoots.
(VASCULAR-RELATED NAC-DOMAIN7はアラビドプシスの根および地上部におけるあらゆる道管細胞の分化に関わっている)
発表誌 Plant Journal 55, 652-664 (2008)
要 旨  私たちはこれまでに、NACドメイン転写因子をコードするVASCULAR-RELATED NAC-DOMAIN7 (VND7)を過剰発現させることで様々な細胞から道管細胞への分化転換が可能であることを明らかにしており、このVND7遺伝子について多面的に解析することで道管細胞分化の分子機構に迫れると考えた。本論文ではまず詳細なプロモーター解析を行い、VND7 が植物体全体の様々な未成熟道管細胞で強く発現していることを示した(図1)。また、VND7タンパク質のC末端領域がVND7の転写活性能と道管細胞への分化転換に必須であることを明らかにした。このC末端領域を欠失させるとVND7タンパク質はドミナントネガティブ型になり、とくにVND7 自身のプロモーターによって道管細胞に発現させると植物体全体で道管細胞の分化阻害と著しい成長抑制を引き起こした(図2)。さらに、酵母Two-hybrid法により、VND7がホモ二量体、もしくは他のVNDタンパク質とのヘテロ二量体を形成することが分かり、道管細胞の分化過程で共発現する他のVND 遺伝子と協調的に道管細胞の分化を制御していると推測された。さらに、VND7タンパク質の安定性がプロテアソームを介したタンパク質分解による制御を受けることが分かった。以上のことから、VND7タンパク質が道管細胞の分化の制御において、他のVNDタンパク質や他の制御タンパク質と協調しながら機能することが示唆された。
図1図1 VND7pro:GUSを用いた発現解析
VND7は根(A)および地上部(B)の道管細胞で強く発現する。また、葉におけるシグナルを詳しく観察すると、二次細胞壁が形成される直前の道管細胞(C) や二次細胞壁の形成直後の道管細胞(D)で強く発現することが分かる。
図2
図2 ドミナントネガティブ型VND7(VND7∆C)を発現させた形質転換シロイヌナズナ
(A)の左2個体と右3個体はそれぞれ、VND7pro によって全長VND7(VND7full)とVND7∆Cを発現させた播種後2週間目の形質転換シロイヌナズナ。VND7pro によるVND7∆Cの発現により根において、らせん状の二次細胞壁をもつ原生木部道管(Bの黒矢じり)と網目状の二次細胞壁をもつ後生木部道管(Cの白矢じり)の形成が阻害された。本葉においてもVND7pro によるVND7∆Cの発現によって道管細胞の形成が阻害され、道管の連続性が失われた(E)。(D)はVND7pro によってVND7fullを発現させたコントロール。(F)の左2個体と右2個体はそれぞれ、VND7pro によってVND7fullとVND7∆Cを発現させた播種後45日目の形質転換シロイヌナズナ。VND7∆Cの発現により矮化が起こり、抽台も起こらない。
研究室HP