論文紹介

研究代表者 荒木 崇 所 属 京都大学大学院生命科学研究科
統合生命科学専攻
著 者 Notaguchi, M., Abe, M., Kimura, T., Daimon, Y., Kobayashi, T., Yamaguchi, A., Tomita, Y., Dohi, K., Mori, M., Araki, T.
(野田口理孝、阿部光知、木村峻裕、大門靖史、小林俊賀、山口礼子、冨田由妃、土肥浩二、森 正之、荒木 崇)
論文題目 Long-distance, graft-transmissible action of Arabidopsis FLOWERING LOCUS T protein to promote flowering
(シロイヌナズナ FLOWERING LOCUS T 蛋白質による長距離作用性・接木伝達性の花成促進作用)
発表誌 Plant & Cell Physiology Vol. 49, No. 11, 1645-1658, 2008年
要 旨  2005年にFT遺伝子産物がフロリゲンの実体であるとする見方が提唱され、2007年にシロイヌナズナ、イネ、カボチャでFT蛋白質が輸送される分子形態であることを示す報告が相次いでなされた。本研究では、FT遺伝子による花成促進効果が接木面を介して伝達されること、接穂(供与側植物)で発現させたT7タグを付加したFT(FT-T7)蛋白質が台木(受容側植物)の茎頂で検出されること、接穂における発現誘導後24〜48時間で検出が可能になることを示した。このことは、FT蛋白質がフロリゲンの要件を満たすことを意味する。また、すべてのコドンに同義置換を導入し、非翻訳配列を置換した人工FT遺伝子をつくり、mRNAの塩基配列と構造の大幅な改変がFT遺伝子の長距離作用能におよぼす影響を調べた。その結果、mRNAの塩基配列と構造の改変によっても、FT遺伝子の長距離作用性の花成促進能力が損なわれないことから、mRNAがフロリゲンの重要な要素である可能性は否定された。
図1
図1
(A) FT遺伝子による花成促進効果の接木面を介した伝達。
左から、無処理のft-1変異体、ft-1変異体を接木したft-1変異体、35S::FTを接木したft-1変異体。35S::FTを接木したft-1変異体では花成に伴う花序の伸長が観察される。
(B) 一過的に誘導されたFT蛋白質の接木面を介した伝達。
上に実験の概要を示し、下に台木のft-1変異体の茎頂部におけるFT-T7蛋白質の検出を示す。二次元ゲル電気泳動により蛋白質を展開し、抗T7抗体によるウエスタンブロットでFT-T7蛋白質(緑色の円内のスポット)を検出した。
図2図2
(A) FTフロリゲンの作用機構のモデル。
栄養成長相(左)では、FT遺伝子の発現は誘導されない。茎頂ではTFL1蛋白質が発現し、bZIP転写因子FDと結合し、その作用(後述)を妨げる。長日条件下における花成過程(右)では、FT遺伝子の発現が誘導され、葉の維管束篩部でFT蛋白質が合成される。FT蛋白質は篩管を介して茎頂に輸送され、茎頂でbZIP転写因子FDと結合し、AP1遺伝子のような標的遺伝子の転写を促進し花芽形成をおこす。FT mRNAの輸送や、FT蛋白質によるFT遺伝子の発現促進(正の自己制御)はないと考えられる。FT蛋白質は自身の輸送を促進する可能性がある。
研究室HP http://www.lif.kyoto-u.ac.jp/labs/plantdevbio/index.html