論文紹介

研究代表者 矢崎一史 所 属 京都大学生存圏研究所
著 者 Kazufumi Yazaki
(矢崎一史)
論文題目 ABC proteins involved in plant growth and development and stress responses
(植物の個体維持機構とABCタンパク質)
発表誌 最新医学 60巻:2447-2453 (2007)
要 旨  植物は基本的に発芽したその場所で一生を終えるため、環境の悪化に対して逃避行動ができず、その反面で多岐にわたる環境ストレスに対し的確かつ高度に対応できるよう、極めて多様で巧緻な適応機能を発達させた。近年のゲノム研究から、植物におけるATP結合カセット(ABC)タンパク質ファミリーのメンバーは、ヒトや線虫の2倍以上の数に及ぶことが明らかになったが、このメンバーの多さと高度な環境適応能力との間には密接な関係があると推察されている。
植物のABCタンパク質ファミリーの特徴として、フルサイズのGサブファミリーなど植物特有の分子があること以外に、ヒトではステロール輸送に関与するメンバーが双子葉類にしか存在しないこと、さらに植物特有のオルガネラである液胞並びに葉緑体に局在する分子の機能などが解明されてきたが、動物と共通の生理的役割も見られる。この総説では個体維持機構の観点から、植物ABCタンパク質の最新情報を動物との比較において概説した。本特定領域に関連の深い部分として、オーキシンの極性輸送に関するABCBタイプのいくつか(AtABCB1, 4, 19)がPINと共存することで輸送阻害剤のNPAに対する感受性や基質特異性が高くなること、ABCGタイプ輸送体(AtWBC11, 12)が植物表皮を守るワックス成分の輸送に関すること等、最新のデータをまとめて紹介している。
図1
図1 植物個体維持に関るABCタンパク質
植物の生長や分化の制御、あるいは生命能維持に関するABCタンパク質の内、基質が予測・同定されている代表的分子を示した。図は双子葉をモデルとしたが、アントシアニン輸送に関するABCタンパク質は単子葉のもの。輸送基質はイタリック表記とした。特にことわりが無い場合はシロイヌナズナの遺伝子。
研究室HP http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/W/LPGE/