論文紹介

研究代表者 馳澤盛一郎 所 属 東京大学大学院
新領域創成科学研究科
著 者 Toshio Sano, Natsumaro Kutsuna, Dirk Becker, Rainer Hedrichand Seiichiro Hasezawa
(佐野俊夫、朽名夏麿、Dirk Becker、Rainer Hedrich、馳澤盛一郎)
論文題目 Outward rectifying K+ channel activities regulate cell elongation and cell division of tobacco BY-2 cells.
(タバコBY-2 細胞の細胞伸長と細胞分裂とを調節する外向きカリウムイオンチャネル活性)
発表誌 The Plant Journal 57: 55-64, 2009
要 旨  細胞分裂による細胞数の増加とその後の細胞肥大(伸長)による個々の細胞の体積増加は植物体積増加の基本パターンであり、細胞分裂と細胞肥大との厳密な切り替えが植物組織、器官の正常な形態形成を可能にしている。そこで、この調節メカニズムを解明するために植物細胞内で最も多く含まれる陽イオンであり細胞体積変化に大きく関わるカリウムイオン(K+)およびK+ を細胞内外に輸送するK+ チャネルに着目した。その結果、細胞肥大のみならず、細胞分裂にもK+ チャネルを介したK+ 吸収が必要であることが明らかになった。そこで、細胞分裂におけるK+ の役割を調べるためにタバコ培養細胞BY-2を用いてK+ チャネル遺伝子の発現解析を行ったところ、K+ 吸収に関与するK+ チャネル遺伝子NKT1は細胞伸長時でも細胞分裂時でも発現していたが、K+ 排出に関与するK+ チャネル遺伝子NTORK1およびNtTPK1は細胞分裂時にのみ発現していた。細胞内のK+ 濃度を測定したところ、細胞分裂時には一旦、K+ が吸収されるが、その後、細胞内のK+ 量が減少した。細胞伸長時に吸収されたK+ は細胞内浸透圧の増加に使われると考えられるが、pH蛍光指示薬を使った細胞質pHの測定と、細胞質アルカリ化剤を使った解析から、細胞分裂時に吸収されたK+ は細胞質をアルカリ化することで細胞分裂を誘導する可能性が示唆された。
図1図 カリウムイオン(K+) の吸収、排出と細胞伸長、細胞分裂。
細胞分裂時も細胞伸長時もK+ チャネルを介してK+ が吸収されるが、細胞分裂時には液胞から細胞質へ、そして細胞外へK+ が排出される。一方、細胞伸長時にはこれらのK+ 排出チャネルの活性は抑制されて、K+ が細胞内に蓄積され、細胞内浸透圧が増加して細胞体積が増大する。
研究室HP http://hasezawa.ib.k.u-tokyo.ac.jp/zp/hlab