論文紹介

研究代表者 馳澤盛一郎 所 属 東京大学大学院
新領域創成科学研究科
著 者 Higaki T, Kustuna N, Sano T, Hasezawa S
(桧垣匠、朽名夏麿、佐野俊夫、馳澤盛一郎)
論文題目 Quantitative analysis of changes in actin microfilament contribution to cell plate development in plant cytokinesis
(植物の細胞質分裂における細胞板の発達に対するアクチン繊維の寄与率の定量解析)
発表誌 BMC Plant Biology 8:80 (2008)
要 旨  植物細胞の細胞質分裂は二つの娘核の中央部に円板状に出現する細胞板が遠心的に発達し、既存の細胞壁と癒合することによって完了する。この細胞板は微小管・アクチン繊維・生体膜から成る隔膜形成体によって形成されるが、隔膜形成体におけるアクチン繊維の分布や機能に関しては不明な点も多かった。本研究ではGFP-ABD2によりアクチン繊維を生体可視化したタバコ培養細胞細胞BY-2の形質転換細胞系を確立し、細胞板とアクチン繊維の局在の経時変化を検討した。その結果、分裂終期のはじめに娘核周辺からアクチン繊維が出現し、細胞板へと徐々に集積していく様子が捉えられた(図1)。また、細胞板の拡大速度を詳しく測定したところ、コントロールの細胞では細胞板の面積増加速度は常に一定であったのに対し、アクチン繊維を壊した場合、分裂終期の進行に従ってその増加速度が低下することを見出した。この細胞板の面積増加速度の差から細胞板拡大に対するアクチン繊維の寄与率を推定したところ、分裂終期のはじめは10%ほどであったが、分裂終期のおわりには25%近くまで上昇することがわかった(図2)。さらに、輸送小胞および小胞体の細胞板近傍への集積がアクチン繊維依存的に起こることを見出した。以上の結果から、アクチン繊維は隔膜形成体における膜動態の制御を介して細胞板の拡大を助長する役割を持つことが明らかになった。

図1
図1 アクチン繊維と細胞板の経時観察
(A) 分裂中期から分裂終期までのGFP-ABD2で標識したアクチン繊維(緑)と蛍光色素FM4-64で標識した細胞板(赤)の経時観察像。分裂中期の終わりを0 minと定義した。スケールバーは25マイクロメートルを示す。
(B) 細胞分裂面におけるGFP-ABD2とFM4-64の蛍光輝度の変化。(A)で四角で示した細胞分裂面に沿った幅9マイクロメートルの線上の蛍光輝度を経時的に測定した。数値は独立した四回の実験の平均値±平均誤差を示す。
(C) 分裂中期から分裂終期までの(A)で矢印で示した細胞板に直行する線分上のキモグラフ。破線はアクチン繊維の局在変化を示す。四回の独立した実験の一例を示す。
図2
図2 アクチン繊維破壊剤ビステオネライドA(BA)の細胞板の拡大に対する影響の定量解析
(A), (B)コントロール(白丸)とBAを処理した細胞(黒丸)における細胞板の直径の変化に関する回帰解析。0 min は細胞板形成のはじめを示す。数値は独立した十二回の実験の平均値±平均誤差を示す。実線と破線はそれぞれコントロールとBAを処理した細胞における細胞板の直径にモデル式1(A)と2(B)の回帰曲線を示す。モデル式1では細胞板の拡大率aは一定であり、モデル式2では拡大率a-btnは時間依存的に変化する。コントロールのデータにモデル式2を適用した場合、nは一様に定まらなかったため、BA処理と同様と考えてnは1.81とみなした。
(C)カイ2乗適合検定におけるp値の比較。モデル式2の方がモデル式1よりも適切であることがわかる。
(D) BA処理の細胞板拡大速度に対する影響のシミュレーション。数値は独立した十二回の細胞板拡大速度の計算結果の平均値±平均誤差を示す。有意差はt検定で定めた。p値 *< 0.05. **<0.001.
(E) 細胞板拡大に対するアクチン繊維の寄与率のシミュレーション。数値は独立した十二回の細胞板拡大速度の減少率の計算結果の平均値±平均誤差を示す。 計算に用いた細胞板拡大速度は(D)で求めた数値と同様である。
研究室HP http://hasezawa.ib.k.u-tokyo.ac.jp/zp/hlab