論文紹介

研究代表者 平野博之 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Takuya Suzaki, Akiko Yoshida, and Hiro-Yuki Hirano
寿崎拓哉、吉田明希子、平野博之
論文題目 Functional diversification of CLAVATA3-related CLE proteins in meristem maintenance in rice.
イネのメリステム維持を制御する CLV3様 CLEタンパク質の機能分化
発表誌 Plant Cell, 20: 2049-2058,2008.
要 旨  植物のシュートの先端には、茎頂分裂組織(メリステム)や花分裂組織が存在し、この中に、幹細胞が維持される。幹細胞は自分自身を複製して増殖するとともに、その一部を葉や花などの器官に分化するための細胞として提供する。私たちは、これまで、シロイヌナズナにおいて、幹細胞増殖を負に制御するCLVシグナル伝達系と類似した機能が、単子葉植物のイネにおいても保存されていることを明らかにしてきた。しかし、このFON伝達系は、イネでは、花分裂組織のみを制御し、栄養成長期の茎頂分裂組織に関わる因子は不明であった。
 本研究では、 FCP1というシグナル分子を見出し、この因子が茎頂分裂組織の幹細胞を負に制御することを明らかにした。 FCP1を過剰発現させると、小さな異常な葉を数枚分化した後に、枯死する(図1)。詳細に観察すると、茎頂分裂組織が消失しており、幹細胞が使い尽くされていることが判明した(図2)。一方、FON伝達系でシグナル分子として働くFON2では、このような現象は全く起こらなかった。また、FCP1は、根端分裂組織の維持にも負に作用するが、FON2にはその機能がほとんどないことも明らかになった。以上の結果は、イネには、幹細胞の維持を負に制御する2つの伝達系が存在し、その中で働くシグナル分子に機能分化が起きていることを示している。
図1図1 FCP1(左)とFON2(右)の過剰発現体
FCP1
を過剰に発現すると、葉は異常に肥大し、数枚を生じた後に枯死する。FON2を過剰発現体は、正常な芽生えとまったくかわらない。
図2図2 FCP1を過剰発現体(左)と野生型(右)の茎頂部
野生型で見られるドーム状の茎頂分裂組織は、FCP1を過剰に発現させると消失し、葉の原基も形成されなくなる。
研究室HP