論文紹介

研究代表者 松林嘉克 所 属 名古屋大学大学院生命農学研究科
著 者 Hidefumi Shinohara and Yoshikatsu Matsubayashi
(篠原秀文,松林嘉克)
論文題目 Functional immobilization of plant receptor-like kinase onto microbeads towards receptor array construction and receptor-based ligand fishing.
(受容体アレイおよびリガンドフィッシング系の確立を目指した受容体キナーゼの機能的な固相固定化)
発表誌 Plant J. 52, 175-184 (2007)
要 旨  ポストゲノムの時代における主要な解析ターゲットのひとつは,ゲノム情報から導き出される数多くの受容体キナーゼが,どの分子の受容体として機能しているか,すなわちリガンドが何かという課題である.しかし,シロイヌナズナの細胞膜局在性の受容体キナーゼのうち,リガンドが同定されているものは全体の5%以下であることからもわかるように,リガンド-受容体ペアを見つけることは容易ではなく,新しい方法論の確立が求められている.本研究では,PSK受容体をモデルとして受容体キナーゼの細胞外領域をリガンド結合能力を完全に維持したままビーズに固定化する方法論を確立した.この受容体固定化ビーズと蛍光ラベルリガンドを用いると,ビーズ上でのリガンド-受容体相互作用を共焦点顕微鏡下で容易に可視化することができた.この技術は,受容体アレイの作製に応用可能である.また,受容体固定化ビーズを詰めたカラムを用いて,細胞培養液中に含まれる微量のリガンドを1段階で精製・同定する手法も確立した.この結果は,受容体側から直接的にリガンドを釣り上げるリガンドフィッシングが技術的に実現可能であることを示している.多数の受容体キナーゼをあらかじめ固定化しておくことにより,今後新しいリガンド-受容体ペア探しが極めて迅速化できると期待される.
図1図1(A)PSKR1およびPSKR1-deltaKD-HTタンパク質の構造.SP: signal peptide, LRRs: leucine-rich repeats, TM: transmembrane domain, KD: kinase domain.HaloTagは専用セファロースビーズによる高効率の共有結合固定化を可能にする.(B)ビーズに固定化したPSKR1-deltaKD-HTタンパク質と[Alexa488]PSKとの相互作用の共焦点レーザー顕微鏡による可視化.10 nMの[Alexa488]PSKの添加で,ビーズ表層に強い蛍光が観察された.過剰量の非ラベルPSKの添加で蛍光は完全に消失したため,結合は特異的であると判断できる.(C)PSKR1-deltaKD-HT固定化ビーズ充填カラムを用いたリガンドフィッシング.シロイヌナズナT-87細胞の培養液(conditioned medium, CM)には多くの代謝産物や分泌因子が含まれているが,PSKR1-deltaKD-HTカラムを用いて精製すると,吸着画分にはHPLC上でPSKがメジャーなピークの一つとして検出された.PSKR1-deltaKD-HTを固定化していないコントロールカラムにはPSKは吸着されなかった.
研究室HP http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~bioact/index.html