論文紹介

研究代表者 杉山宗隆 所 属 東京大学大学院理学系研究科附属植物園
著 者 Ohtani, M., Demura, T., Sugiyama, M.
(大谷美沙都、出村拓、杉山宗隆)
論文題目 Differential requirement for the function of SRD2, an snRNA transcription activator, in various stages of plant development.
(植物の発生段階によって異なるsnRNA転写活性化因子SRD2の要求性)
発表誌 Plant Molecular Biology 66: 303-314 (2008)
要 旨  核内低分子RNA(snRNA)は機能性RNAの一グループで、プレmRNAスプライシングやrRNAプロセッシングにおいて重要な役割を担っている。そのため、snRNA転写の適切な制御は、真核生物にとってきわめて重大であると言える。本研究で私たちは、snRNA転写活性化因子をコードするシロイヌナズナの遺伝子SRD2を解析することにより、発生に関連したsnRNA転写の調節とその意義について調べた。若い芽生えにおいては、高レベルのSRD2発現は、シュート頂と根端のメリステム、葉原基、根の中心柱といった、著量のsnRNAを蓄積している部位で観察された。成熟した植物体では、メリステムのほか発達中の葉や花がSRD2を発現していた。SRD2遺伝子の突然変異は、強いSRD2発現を示す部位において、発生の多くの側面に影響を与えたが、顕著な影響が見られない場合もあった。注目すべきことに、芽生えにおけるメリステムの完全な活性化状態の確立はsrd2-1変異に対して強い感受性を示したが、こうした状態が一旦確立した後のメリステムの維持は変異の影響をほとんど受けなかった。これらの結果より、植物の発生段階によってSRD2機能の要求度が大きく異なることが明らかになった。
図1図1芽生えのシュート頂メリステムに対するsrd2-1変異の影響
 22°C(A, C, E, G, I, K)または28°C(B, D, F, H, J, L)で発芽させた野生型(A, B, E, F, I, J)およびsrd2-1変異体(C, D, G, H, K, L)の芽生えのシュート頂部。I-LはU2 snRNAの蓄積を示す。srd2-1は温度感受性変異体であり、22°Cでは比較的正常に育つが、28°Cで発芽させるとシュート頂メリステムが十分に発達しない。メリステム領域におけるsnRNA蓄積の不足が原因と思われる。
図2図2 srd2-1変異体の花序におけるsnRNAの蓄積
 野生型(A, C)およびsrd2-1変異体(B, D)を22°Cで28日間育てた場合(A, B)と22°Cで発芽させ7日目に28°Cに移して21日間育てた場合(C, D)の、花芽におけるU2 snRNAの蓄積。Fは同様の条件で育てた植物体の花序におけるU2およびU6 snRNA蓄積の半定量的解析。22°Cで発芽させたsrd2-1変異体は、メリステム確立後であれば、28°Cに移しても成長を続け、花成に至るが、このときメリステムではSRD2の機能低下にも拘わらず、正常にsnRNAを蓄積している。28°Cで発芽させたsrd2-1変異体の芽生えでsnRNA蓄積が強く抑制されること(E)と対照的である。
研究室HP http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/research/sugi-lab/sugi-1.html