論文紹介

研究代表者 町田泰則 所 属 名古屋大学 理学研究科生命理学専攻
著 者 Terakura, S., Ueno, H., Tagami, H., Kitakura, S., Machida, C., Wabiko, H., Aiba, K., Otten, L., Tsukakoshi, H., Nakamura, K., Machida, Y.
(寺倉伸治、上野宜久、田上英明、北倉佐恵子、町田千代子、我彦弘悦、饗場弘二、Léon Otten、塚越啓央、中村研三、町田泰則)
論文題目 An oncoprotein from the plant pathogen Agrobacterium has histone-chaperone-like activity.
(植物病原細菌であるアグロバクテリウムが保有するオンコ遺伝子はヒストン・シャペロン様の活性を持つ)
発表誌 The Plant Cell 19: 2855-2865 (2007)
要 旨  アグロバクテリウムは植物に感染し、瘤状の腫瘍を形成する。この腫瘍は、この細菌にある一群の遺伝子が植物細胞に転移し、染色体DNAに入り込み、発現することにより形成される。6b はこれらの遺伝子の一つである。6bを単独でタバコ細胞で発現させても、細胞は、植物ホルモン(通常の細胞増殖に必要な生理活性物質)を添加しなくても増殖するようになる。また、6bを発現させた植物は、葉や花の形態異常を示す(図1)。私たちは、植物における細胞の増殖や分化の仕組みを知るために、6bが細胞内で何をしているのかを調べている。そのために、6bタンパク質と結合するタバコのタンパク質を同定・単離し、その機能を調べてきた。そのうちの一つが今回報告したヒストンH3である。6bは、ヒストンH3のヒストンホールド(ヒストンどうしの結合に必要な領域)に結合した。さらに、試験管内の反応により、ヒストンシャペロンの活性(図2)とヌクレオソーム形成の活性が検出された。既知のヒストンシャペロンは、細胞核の中でクロマチンの構造を変化させ、遺伝子の発現に影響を与えることが知られているので、6b も、植物細胞の中で、細胞増殖や分化に関する遺伝子の発現に影響を与えると推察される。実際に、6bは、オーキシンで誘導される遺伝子の発現レベルを低下させた。この結果は、クロマチンの構造変化の制御が、細胞増殖や分化にとって重要であることを示す。
図1図16b 遺伝子を発現している形質転換植物の形態
 A, 形質転換タバコ、a, c, ベクターコントロール;b, d, c, 6b 形質転換体. 葉の背軸側からの突起や葉柄の異常伸長、葉身の発達阻害、子葉と葉の上方湾曲などが見られる。B, 形質転換シロイヌナズナ、b, d, 非形質転換体;a, c, 6b 形質転換体. 子葉と葉の上方湾曲や鋸歯が見られる。
図2図2 6b タンパク質には、コアヒストン存在下で、リラックスした二重鎖閉環状DNA をスーパーコイルに変換する活性(ヒストンシャペロン活性)がある
研究室HP http://www.bio.nagoya-u.ac.jp:8001/~yas/b2.html