論文紹介

研究代表者 矢崎一史 所 属 京都大学生存圏研究所
著 者 Masahiko Morita, Nobukazu Shitan, Keisuke Sawada, Marc Van Montagu, Dirk Inz・/font>, Heiko Rischer, Alain Goossens, Kirsi-Marja Oksman-Caldentey, Yoshinori Moriyama, Kazufumi Yazaki 
(森田匡彦、士反伸和、澤田啓介、マーク・ヴァン・モンターグ、ディルク・インゼ、アラン・グーセンス、キルシマリア・オクスマン、森山芳則、矢崎一史)
論文題目 Vacuolar transport of nicotine is mediated by a novel multidrug and toxic compound extrusion (MATE) transporter in Nicotiana tabacum 
(タバコにおけるニコチンの液胞輸送はMATEトランスポータによって介される)
発表誌 Proc. Natl. Acad. Sci. USA,106 (7), 2447-2452 (2009)
要 旨  アルカロイドは、植物が病原微生物や食植者から自らを守るデフェンスとして鍵となる役割を果たしているが、潜在的に自分自身にとっても毒物でありうる。ニコチアナ属の主たるアルカロイドであるニコチンは、根組織で生合成された後導管輸送を介して地上部に運ばれ、葉の液胞に蓄積する。この転流を司る膜輸送の分子機構を明らかにするため、タバコのジャスモン酸輸送性遺伝子を調べ、生合成酵素と同じ発現誘導を受ける輸送体のcDNA、Nt-JAT1をクローニングした。MATEタイプの輸送体であるこの分子は、根、茎、葉の全てで発現していた。酵母で発現させた所、Nt-JAT1は細胞膜に局在し、ニコチンの輸送活性を示した。精製したNt-JAT1リコンビナント蛋白質を大腸菌のプロトンポンプと共にプロテオリポソームに再構成し、生化学的に解析した所、この輸送体はアルカロイドに特異性を示し、プロトンと対向輸送でこれら有機カチオンを輸送することが明らかとなった。フラボノイドなどは基質とならなかった。またタバコ緑葉でNt-JAT1は液胞膜に局在していた。これらのことから、Nt-JAT1はタバコ緑葉で二次輸送体としてニコチンの液胞蓄積に関与していることが強く示唆された。
図1
図1 タバコにおいて、ニコチンは根で生合成され、導管輸送によって地上部に運ばれ、最終的に若い葉の液胞に蓄積する。cDNA-AFLPでニコチン生合成遺伝子と同様のジャスモン酸誘導性を示す遺伝子断片を調べた所、MATE (multdrug and toxic compound extrusion) タイプに属する輸送体のcDNAが同定された。 Nt-JAT1と命名したこの膜蛋白質の輸送活性を調べた所、ニコチンを基質とし、プロトン勾配を利用して対向輸送体としてこれを輸送できること、またNt-JAT1はタバコ緑葉では液胞膜に局在することが明らかとなった。これらのことから、Nt-JAT1は二次輸送体としてニコチンの転流における最後のステップ、緑葉の液胞でのニコチン蓄積に関与することを明らかにした。
研究室HP http://www.rish.kyoto-u.ac.jp/W/LPGE/