論文紹介

研究代表者 島本 功 所 属 奈良先端科学技術大学院大学 
バイオサイエンス研究科
著 者 Yasuyuki Takahashi, Kosuke M. Teshima, Shuji Yokoi, Hideki Innan and Ko Shimamoto 
(高橋靖 幸、手島康介、横井修司、印南秀樹、島本功)
論文題目 Variations in Hd1 proteins, Hd3a promoters, and Ehd1 expression levels contribute to diversity of flowering time in cultivated rice.
(Hd1タンパク 質、Hd3aプロモーター配列及びEhd1の発現レベルが栽 培イネの開花期の多様性に寄与している)
発表誌 PNAS 2009 106:4555-4560
要 旨  イネ品種の花成時期の多様化は稲作地域の拡大や育種技術の発展に貢献した重要な形質の一つである。本研究では、64品種の栽培イネ(コアコレクション)を用いて花成時期の多様化機構を明らかにする事を試みた。
まず、各花成関連遺伝子の発現量と花成時期との関係を調べたところ、Hd3aの発現量と花成時期の間に強い相関関係があることを明らかにした(図1)。また網羅的なシークエンス解析を行った結果、Hd1ではタンパク質機能に重要とされるCCTドメインの一部または全てを失うような変異が多く見つかった。さらにこのHd1アリルの多様性は、花成時期及びHd3a発現量のそれぞれとの間に相関が見られた(図2)。また同様に、Hd3aプロモーター領域における塩基多型や、Ehd1における遺伝子発現の多様性においてもHd3a発現量および花成時期の多様性への関与が確認されている。さらに線形モデルを用いた統計的解析を行った結果、これら3つの要因で説明される花成時期の多様性の内、Hd1アリルおよびEhd1発現量の多様性による寄与がそれぞれ40%前後であることが示された。以上の結果は、春化応答を主な原因としたシロイヌナズナの花成の多様化機構とは大きく異なるものであった。この事から植物の生育地域の拡大および生育環境への適応において、それぞれの植物種では花成時期の多様化をもたらす際に異なった因子がターゲットとなった可能性が示された。
図1
図1 花成時期の多様化機構の解析
A 短日条件下におけるイネの光周性花成誘導経路のモデル
B 64品種のイネにおいてHd3a発現量と花成時期の間に相関関係が見出された。
遺伝子発現解析は、播種後35日目の植物体において行った。発現量は自然対数で表している
図2
図2 Hd1機能における花成時期およびHd3a発現量への影響
A CCTドメインを欠失したnon-functional Hd1アリルの構造。原因となった塩基変化の位置は赤矢頭で示す。 灰色の領域はフレームシフトによるアミノ酸配列の変化した領域を示している。白と黒の矢頭はそれぞれ欠失と挿入の位置を示しており、数字は各アリルの番号を表している。
B Non-functional Hd1アリルを有する品種は低いHd3a発現量および遅咲き表現型を示す傾向が見られた。
研究室HP http://bsw3.naist.jp/simamoto/simamoto.html