|
名古屋大学 大学院理学研究科 生命理学領域 脳回路構造学 〒464-8602 名古屋市千種区不老町 |
研究内容について私たちは、「ショウジョウバエ」と「蚊」を使って、求愛コミュニケーションを成立させる脳のしくみを調べています。最近の研究発表■ ショウジョウバエ聴覚系の神経解剖学![]() 私たち人間を含む多くの動物は、コミュニケーション手段として音を利用しています。こうした音の多くは種に固有のパターンを持っており、そのやり取りが成立するには、受け取った音の意味を脳が正しく理解する必要があります。では、脳内のどのような神経回路がこの情報処理を担っているのでしょうか。私たちは、神経回路レベルで脳の働きを理解するための優れたモデル動物であるショウジョウバエを用いて、音の情報処理を担う聴覚神経細胞の包括的な同定と、神経回路地図の作製に取り組んでいます。
■ 音のリズムを聞き分ける神経メカニズムの研究音のリズムを聞き分けることは、ヒトを含むさまざまな動物のコミュニケーションに欠かせない能力です。ショウジョウバエはヒトとは全く異なる外見をしていますが、ヒトと同じように音のリズムのわずかな違いを聞き分けることができ、共通する脳内メカニズムを備えていることが分かっています。 私たちのこれまでの研究から、ショウジョウバエの脳内のあるニューロンが、他のニューロンの応答を絶妙に調節する「ブレーキ」として働き、音への過剰な反応を抑えていることが明らかになりました。 このメカニズムをさらに解析することで、ヒトの会話や音声認識にも通じる「音のリズムを分析する脳内メカニズム」の解明につなげたいと考えています。
■ 音を識別する能力を後天的に獲得する学習機構鳥の歌学習やヒトの言語学習は、音のパターンを識別する先天的な脳内機構と、幼少期の聴覚経験によって成熟する後天的な脳内機構とが協調して働くことで実現されます。 私たちは近年、ショウジョウバエも同様の仕組みによって正しい歌を学習することを発見しました。ショウジョウバエは、研究データを得るスピードの速さや遺伝子操作技術の豊富さを特徴とし、動物に共通する神経メカニズムを数多く備えたモデル動物です。 私たちはこの利点を活かし、歌の学習を担う神経機構・分子機構を解明する最もシンプルなモデル系として、多彩な実験操作が可能なショウジョウバエを用いるという新しい研究戦略を展開しています。実際に最近では、メスが求愛歌の好みを学習する際に必要な神経回路の一端を明らかにし、特定の神経細胞からのGABA作動性の入力がこの学習に不可欠であることを見出しました。
■ 蚊の配偶行動を制御する神経機構の解明と応用![]() 蚊は吸血によって感染症を媒介し、毎年数十万人規模の命を奪っています。この吸血は、交尾を終えたメスが産卵のための栄養源を得るための行動です。そのため、配偶行動に介入することは、蚊による被害を防ぐ有効な方策の一つになると考えられます。 そこで私たちは、日本を含むアジア地域でデング熱やジカ熱を媒介するヒトスジシマカや、熱帯地方で同様の感染症を媒介するネッタイシマカを対象に、配偶行動を成立させる神経基盤の解明に取り組んでいます。特に、配偶行動において重要な役割を果たすと考えられる聴覚系に着目し、その機能や特性を行動・神経細胞のレベルで明らかにすることを目指しています。 これまでに、蚊の聴覚神経系におけるセロトニンの作用や、聴覚機能を支える細胞内シグナル伝達の仕組みを明らかにしてきました。また、雄の聴覚系がもつ種特異的な特徴が近縁種間の交雑を防いでいることを示したほか、音に対する脳の応答の様子を可視化することにも成功しています。 蚊の配偶行動を聴覚という切り口から理解することで、新たな蚊の繁殖制御法の開発につながる可能性があります。 ■ HFSP2021 採択課題: 蚊の聴覚コミュニケーションの解読 Decoding acoustic communication in mosquitoes : From distortion products to vector control
■ 行動の進化をもたらす遺伝子と神経回路の変化を特定する![]() 動物の行動は可塑的である一方で、種や系統群を特徴づける重要な形質でもあります。進化の過程ではしばしば行動の変化が形態の変化に先んじることから、行動は形態と相互作用し、ときにはそれを先導しながら進化してきたと考えられています。進化発生学(Evo-devo)の発展により形態進化の分子機構は徐々に解明されてきましたが、「新たな行動がどのように獲得されるのか」「行動の種特異性がどのように成り立つのか」については、まだほとんど分かっていません。 行動は複雑な神経回路と、それを形づくる遺伝子ネットワークに支配されています。種(系統)ごとに一定の行動傾向がある以上、行動の進化は神経回路とゲノムの変化として捉えられるはずです。そこで私たちは、進化学においても重要な位置を占めるキイロショウジョウバエとその近縁種を用いて、行動に関わる遺伝子や神経回路を種間で比較しています。近年発展した単一ニューロンの可視化・活性化/不活性化技術も活用しながら、どのような神経回路とゲノムの変化が新しい行動の獲得を引き起こすのかを、高い解像度で明らかにしようとしています。 実際に、近縁2種のハエが持つ求愛歌の好みの違いを支える神経回路の進化的な変化や、群れを作る性質の種間差を生み出す意思決定の仕組みを明らかにしてきました。また、性を決定する遺伝子を操作することで、ある種に特徴的な求愛行動を別種において再現できることも示しており、単一の遺伝子スイッチが種特異的な行動を生み出しうることを明らかにしています。 研究業績へ
Copyright (C) Kamikouchi laboratory All rights reserved.
|