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名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 染色体生物学グループ
 
 




 
   
             
 
 

わたしたちの研究室は2012年3月に開設されました。私たちはゲノムのキャリアである染色体がその構造をいかに構築しているのか、また染色体がいかにして次世代の細胞に均等に分配されるか、その分子メカニズムの解明を目指して研究を進めています。

我々生物のゲノムは、染色体という形をとって次世代の細胞に継承されていきます。たとえば約31億塩基対におよぶヒトゲノムDNAは、引き延ばすと約2mもの長さになると言われていますが、これがクロマチンという形をとることで、わずか直径数マイクロメートルの細胞核の中に収納されています。S期において核の中で複製されたゲノムは、分裂期においてさらに数千から一万倍に凝縮し、分裂期染色体を形作ります。これらの分裂期染色体は、長さ数マイクロメートルの分裂期スピンドルの中央に並べられ、両極から均等な力で引っ張られることで、二つの娘細胞に均等に分配されます。ゲノムの複製から、凝縮・分配に至る一連の染色体構造変化は、秩序だった分子基盤とそのダイナミックな変換に基づいて制御されていると考えられますが、その具体的な分子メカニズムには不明な点が多く残されています。

 
 

(参考)理Philosophiaの記事(2015年 autumn-winter PDF

 
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染色体均等分配のしくみを接着から読み解く

 
 

正確な染色体分配にとって最も重要なイベントの一つが、姉妹染色分体間の接着です。ゲノムの複製と同期して、複製されたゲノム同士、すなわち姉妹染色分体同士の間に接着(Sister chromatid cohesion)が形成されます。この接着は染色体が分配される際に、スピンドル微小管との間に張力を発生させる原動力となり、染色体均等分配のしくみの核心部分に存在する現象と言えます。この接着を担うのが、コヒーシンというリング状のタンパク質複合体(右図)です。この不思議な形状の複合体は、どのようにして2本のDNAを束ねているのか、そしてそのしくみはどのようにDNA複製と同期しているのか?私たちは、哺乳動物培養細胞、アフリカツメガエル卵、ショウジョウバエ細胞など、さまざまな生物種や発生ステージの細胞を用いて、この疑問に答えようとしています。


 
 

タンパク質 / DNA一分子の動きから染色体構築のしくみをさぐる

 
 

近年、ChIP-seqやHi-Cといったゲノムワイドなシーケンス解析技術の進歩によって、ゲノム上のタンパク質の分布やクロマチン高次構造、染色体構造の全容が、sub-Mbの解像度で明らかにされつつあります。私たちは、タンパク質一分子、DNA一分子をターゲットにして、タンパク質の挙動やDNAの構造変化を観察することにより、染色体やクロマチンのローカルな構造がどのように構築され、それが巨大なクロマチンや染色体を形作っているのかを明らかにすることを目指しています。たとえば、姉妹染色分体間接着因子コヒーシンは、「接着」という一見スタティックな機能を持っていますが、実際にはDNA上、さらにはクロマチン上をダイナミックにスライドしていることが私たちの一分子観察から明らかになりました。この発見は、コヒーシンが接着と同時に(あるいは独立に)、クロマチン高次構造のダイナミックな変化に重要な役割を果たしている可能性を示唆しています。わたしたちはこれら染色体因子とDNAの一分子ダイナミクスから、染色体構造、クロマチン構造の知られざる姿を明らかにしようとしています。一分子解析に関する最近の論文・レビューはこちら


 
 

染色体進化

 
 

生物はつねに生息環境の変動にさらされ、そのたびに生存のストラテジーを変容させることで進化の道を歩んできました。これらの変化はまた、染色体形態そのものや、その構成因子、あるいはダイナミクスに変化をもたらしています。私たちは、生物の進化にともなって、生存ストラテジーの変容がどのように染色体ダイナミクスを変化させてきたのかを、哺乳類・両生類・ショウジョウバエ・菌類などの細胞を用いて明らかにしようとしています。進化研究に関する最近の論文はこちら

 

 

 

   
ショウジョウバエ細胞における染色体分配の様子

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染色体機能因子と疾患

 
 

近年、染色体接着や凝縮に関係する因子を原因遺伝子とする先天性疾患が次々と報告されています。たとえば、染色体接着に必須であるコヒーシン複合体の関連因子の変異は、Cornelia de Lange Syndrome(CdLS)やRobert Syndrome(RBS)などを引き起こし、これらは総じて“Cohesinopathy” コヒーシン病とも呼ばれています。私たちは、これら染色体因子を原因とする遺伝性疾患の発症機序の解明にも独自の系を用いて取り組んでいます。

 
 

染色体凝縮と接着のクロストーク

 
 

細胞が分裂期に入ると、染色体は姉妹染色分体間の接着を維持しながら、また二本の姉妹染色分体を区別しながらDNAを凝縮させ、分裂期染色体を構築します。染色体凝縮にはコンデンシンやトポイソメラーゼIIが中心的な役割を果たしていることが知られていますが、これらの分子がどのように染色体を高度に凝縮させているのか、またその他の因子とどのように協調して分裂期染色体を構築しているのか、その詳細な分子メカニズムはわかっていません。私たちは、脊椎動物細胞とアフリカツメガエル卵無細胞系を用いて、染色体凝縮の分子ネットワークと、染色体接着機構のクロストークを理解することで、染色体構築の実像に迫ろうとしています。