要 旨 |
ホンモンジゴケ (Scopelophila cataractae)
は、寺院の銅葺き屋根の下など銅濃度の高い環境下に生育し、銅を蓄積する興味深い蘚類である。しかし、銅が高濃度に存在する環境を、このコケがどのような機構を用いて探しているのかは未だ知られていない。日本やアメリカ、ヨーロッパに分布するホンモンジゴケは、主に無性芽を形成することで分布拡大することが知られている。そこで、この無性芽形成の制御機構に独自の分布拡大の機構解明の鍵があるのではないかと考え、ホンモンジゴケ原糸体における無性芽形成
(図1A) への銅添加の影響を調べた。その結果、銅無添加条件では、無性芽形成が促進されることが明らかになった (図1B)。一方、銅添加条件では原糸体の成長が促進し
(図1C, D)、無性芽形成が抑制された (図1B)。これらの結果から、銅濃度が低い環境、つまりホンモンジゴケにとって種間競争が厳しく生存に不利な環境では定住せず、生育ステージ初期である原糸体の段階で無性芽を大量に形成して、積極的に新しい場所に移動するというモデルが推測された
(図2)。また、この無性芽形成抑制は、銅以外の重金属添加では引き起こされなかった。この結果は、ホンモンジゴケが重金属の中でも銅に特異的なセンシング機構を備える可能性を示唆するとともに、自然界で高濃度の銅環境下に偏在的に分布することの説明になりうると考えられる。
図1 A. 原糸体の先端部に形成された無性芽. bar=50 μm. B. 銅添加の無性芽形成数への影響.
C, D. ホンモンジゴケ原糸体コロニー成長への銅添加の影響. 矢印 : 原糸体コロニーの端.
図2 本研究の結果から推測されるホンモンジゴケの高濃度銅環境への分布拡大様式
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