研究概略

細胞間シグナルと受容体の解析から探る植物のかたちづくりと環境応答

 

 植物を含む多細胞生物では,1個の細胞が細胞分裂を繰り返しながら増殖し,やがて様々な機能を持つ組織や個体へと分化していきます.この過程では,個々の細胞があらかじめ決められたプログラムによって変化する細胞自律的な制御と,他の細胞や組織からの働きかけによって機能を変化させる細胞非自律的な制御が存在しており,両者の複雑な組み合わせが細胞の秩序ある機能分化や環境応答を支えていると考えられています.


 細胞非自律的な制御の代表例は,細胞外分泌因子とその受容体を介した情報伝達です.ある状況に置かれた細胞がシグナルを分泌し,その受容体を発現している他の細胞に働きかけることにより,一定の細胞集団だけを活性化し特異的な機能を発現させることができます.この場合,ある受容体に結合するシグナル分子のことをリガンドと呼びますが,実際のところリガンド-受容体ペアが植物にどれくらい存在するのかは,まだよく分かっていません.シロイヌナズナのゲノム解析から推定される細胞膜貫通型受容体様タンパク質の総数は620個ですが,リガンドが解明されているものは,それらの5%程度です.


 これまで,リガンド-受容体ペアは,様々な生物現象に関連する分子群の地道な解析の中で少しずつ見つけられてきました.リガンドはその受容体下流に位置する細胞内情報伝達系を活性化させるマスタースイッチであることから,リガンド-受容体ペアの同定は非常にエキサイティングな研究テーマです.しかし,より多くのリガンド-受容体ペアを見つけ出すには,新しいアイディアや解析技術の確立が必要であることも事実です.私たちは,生化学的・分子生物学的手法を駆使して,より積極的にリガンド-受容体ペアを見つけ出し,それらの背後に隠されている生命現象を分子レベルで解き明かしたいと考えています.


 また,最近では,植物の通道組織である道管や篩管の中を移行して情報を離れた器官に伝えるペプチドシグナル分子にも着目しています.葉と根のような離れた器官が協調して成長できる背景には,こうした長距離移行分子群の存在が垣間見えます.加えて,細胞間シグナルには,しばしば糖鎖付加などの複雑な翻訳後修飾が見られることがあり,これらの修飾が機能に必須であることも少なくありません.こうした修飾に関わる酵素群を解明し,その欠損株を観察すると,翻訳後修飾されたシグナル分子群の機能の全体像が浮かび上がります.手法や着眼点を新しくすると,これまで見過ごされてきた巧妙な植物の成長のしくみが少しずつ見えてくるのです.

 

更新履歴

2019年5月9日
松林嘉克教授が,読売テクノフォーラム 第25回ゴールドメダル賞を受賞しました.
2019年4月17日
篠原秀文助教が,平成31年度 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞を受賞しました.
2019年2月15日
植物ペプチドホルモン受容体において初となる低分子アンタゴニストの探索と同定に関する論文がCommunications Biologyに掲載されました.
2019年2月4日
松林嘉克教授が,第35回井上学術賞を受賞しました.
2019年1月20日
研究成果の一部が,平成31年度大学入試センター試験の理科2生物第3問Bに出題されました.
2018年6月11日
科学研究費助成事業・基盤研究(S)に採択されました.
2017年3月22日
植物の根の窒素吸収を葉から遠距離調節するホルモンの同定に関する論文がNature Plantsに掲載されました.
2017年1月20日
植物の根の拡散障壁であるカスパリー線をつくるペプチドホルモンの同定に関する論文がScienceに掲載されました.
2016年3月21日
植物の根端メリステム形成を制御するRGFの受容体の同定に関する論文がPNASに掲載されました.
2016年2月24日
松林嘉克教授が,第12回日本学術振興会賞を受賞しました.
2015年6月29日
計画班として参画する新学術領域研究「植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム」(環境記憶統合)が採択されました.
2014年10月17日
植物の根の窒素栄養吸収を長距離制御するペプチドシグナルとその受容体の発見に関する論文がScienceに掲載されました.
2014年4月1日
研究室全体が基礎生物学研究所から名古屋大学大学院理学研究科に移籍しました.
2013年9月15日
Hypアラビノシル化酵素の同定に関する論文がNature Chem. Biol.に掲載されました.
2013年8月12日
マメ科植物の根粒の数を制御するシグナル分子の構造解明に関する論文がNature Commun.に掲載されました.
2013年5月31日
科学研究費助成事業・基盤研究(S)に採択されました.