葉の左右相称性
最近の関連文献: 
Semiarti et al. Development 2001;  Iwakawa et al. Plant & Cell Physiol. 2002 
 
 

 葉は、茎頂のメリステムから発生し、扁平で左右相称的な構造をしている。我々は、葉の左右相称的発生の仕組みを知るために、シロイヌナズナの葉の変異体 asymmetric leaves2(as2) as1 を研究している。これらの変異体では、葉身の切れ込みのパターンが左右非対称であり(Fig A, B)、主脈が細い(Fig C, D)。従って、左右相称的な葉の発生のためには明瞭な主脈の存在が重要であると推察される(Semiarti et al. 2001)。さらに、これらの変異体の葉では、通常はメリステム周辺でしか発現していない複数の Class1 knox ホメオボックス遺伝子が発現していることがわかった。このことから、野生型の AS1, AS2 蛋白質は、葉においてはこれらのホメオボックス遺伝子の発現抑制に関わっていると考えられる。Class1 knox は細胞の未分化状態や増殖を正に制御していると考えられているので、as2, as1 変異体の葉においては増殖状態になった細胞が出現していると推察される。このような細胞が葉身のなかでランダムに出現すれば、上記したような左右非対称な葉が形成されると考えられる。実際、これらの変異体の葉の切片を取り出し、ホルモンをまったく含まない培地で培養しても、数% ではあるが、シュート形成が見られた(Fig E)。野生型の葉では、このようなことはまったく見られなかった(Fig F)。つまり、左右相称的分化には、Class1 knox の発現を抑制することが必須であると思われる(Semiarti et al. 2001)。このようにして、この研究は、左右相称性の研究から発展し、葉の細胞の未分化と分化がいかにして決定されているか、という問題へと広がってきた。
 私達は AS2 遺伝子をクローニングした(Iwakawa et al. 2002)。cDNA と遺伝子の構造解析の結果、AS2 は、シロイヌナズナの新奇なファミリーに属するタンパク質をコードしていることがわかった。シロイヌナズナには、このファミリー(AS2 ファミリーと命名)のメンバーは AS2 を含めて 42 個あり、アミノ末端側にはよく保存されたアミノ酸配列(AS2 domain と命名)が存在する。そこには、すべてのメンバーに保存された 4 つのシステイン(C-motif)とロイシン・ジッパー様配列が存在する(Fig G)。AS2 は、他の 41 個のメンバーとアミノ末端側は似ているが、カルボキシル末端側は似ていない。おそらく、機能的に類似している遺伝子は他にはないであろう。AS1 は米国のグループによりクローニングされ、 myb 様の転写因子をコードすると推察された。私達の予備的実験では、これらのタンパク質は結合するらしい。現在、AS1, AS2 及びこれらの複合体が、葉の発生・分化においてどのような機能を果たしているのかを研究している。また、これらのタンパク質がどうような仕組みで Class1 knox 遺伝子を抑制しているのかを、生化学的、分子遺伝学的に研究している。
 
 
ASの画像 Figure
 

(A)~(D)
as2 変異体の葉身(A=as2, B=野生型)と葉脈(C=as2, D=野生型)の特徴。

(E) , (F)
 as2 と野生型の葉切片を取り出し、植物ホルモンを含まない培地で培養した。as2 の数% の切片からはシュートが分化し(E)、野生型ではシュートは形成されず、逆に10% 以上の切片から根が分化した(F)(詳細は Semiarti et al. Development, 2001 参照)。

 (G)に、cDNA から導かれた AS2 タンパク質の構造を模式的に示す。アミノ末端側に AS2 ドメインがあり、C-モチーフとロイシン・ジッパー様モチーフの位置が示してある(詳細は本文を参照)。また、as2 対立遺伝子座の位置を示してある。

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