トランスゴルジ網(trans-Golgi Network, TGN)は、ゴルジ体に隣接する網目状の構造体で、ゴルジ体へ運ばれたタンパク質の最終目的地への選別を行う、膜交通において重要な分岐点となる区画である。しかしながら、植物においては、TGNの生理的な役割については不明であった。我々は、シロイヌナズナのTGNに局在するSNARE分子(SYP4)の機能を解析することにより、植物細胞におけるTGNの役割を明らかにしようと考えた。シロイヌナズナに存在する3遺伝子コピーのそれぞれの単独変異では野生型に比べて目立った異常は示さなかったが、SYP42とSYP43の2つの遺伝子がノックアウトされた変異体(syp42 syp43変異体)では、植物の矮化が観察された。このsyp42 syp43変異体を用いた詳細な解析から、SYP4が分泌経路と液胞輸送経路の両方を制御し、ゴルジ体とTGNの形態維持に関与していることを発見した。また、シロイヌナズナの野生型ではほとんど生育できないうどんこ病菌(Erysiphe pisi)が、syp42 syp43変異体では顕著に生育可能となること、シロイヌナズナの野生型で増殖可能なうどんこ病菌(Golovinomyces orontii)の感染に対しては、サリチル酸に依存した葉の黄化がsyp42 syp43変異体では引き起こされることを発見した。このことから、SYP4は病原菌抵抗性に関与する因子であるとともに、病原菌感染時には、SYP4が何らかの形で葉緑体の機能を制御しているという、新たな細胞小器官間のコミュニケーションの存在が示唆された(図1)

図1.A シロイヌナズナの野生型ではほとんど生育できないうどんこ病菌(Erysiphe pisi)を感染させた植物。野生型に比べて(左側)、syp42 syp43変異体では、うどんこ病菌の侵入と増殖を許し、うどんこ病の増殖が観察される(右)。写真のスケールバーは50マイクロメートル(1/20ミリメートル)。
B シロイヌナズナの野生型で増殖可能なうどんこ病菌(Golovinomyces orontii)を感染させた植物。野生型に比べて(左側)、syp42 syp43変異体では、葉の黄化が観察された(真ん中)。葉の黄化は、植物の免疫応答に働くサリチル酸の合成遺伝子(SID2)を欠損させることで回復した(右)。写真のスケールバーは1センチメートル。 |