論文紹介

研究代表者 平野博之 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Toriba, T., Suzaki, T., Yamaguchi, T., Ohmori, Y., and Hirano, H.-Y.
(鳥羽大陽、、寿崎拓哉、山口貴大、大森良弘、平野博之)
論文題目

Distinct regulation of adaxial-abaxial polarity in anther patterning in rice.
(イネの葯の形態形成における向背軸極性の制御)

発表誌 Plant Cell (in press)
要 旨

 葉や花器官などの発生において、向背軸(背腹軸)の極性を正しく確立することは、きわめて重要です。これまで、葉のような扁平な器官の向背軸極性の制御機構については理解が進んでいますが、雄ずいのような棒状の器官に関しては、その制御機構は、まだほとんど未解明のままです。私たちは、rolというイネの花器官の向背軸が異常となった変異体を用いて、雄ずいの発生時に、非常にユニークな向背軸制御が行われていることを見出しました(図1)。極初期の雄ずい原基では、他の扁平な器官と同様に、向背軸の極性が現れます。しかし、葯の形成時には、かなり早い時期に向背軸の転換が起こり、半葯を単位とした極性が形成されることが明らかとなりました。半葯は背軸側どうしが葯隔によって結びつけられており、半葯の向背軸極性は互いに逆向きで、この極性をもとに葯の発生は進行します。一方、花糸は、完全に背軸化されていることがわかりました。したがって、雄ずいの葯と花糸は独立に、向背軸の極性が制御されていることになります(図2)。葉の発生時には、向背軸の境界が伸長し、この極性の確立が扁平な葉の成長に必須であることが示されています。雄ずいにおいても、向背軸の間の領域が隆起し、花粉嚢が分化することが判明しました。したがって、雄ずいの発生においても、葉と同様の形態形成メカニズムがはたらいていると考えられます。遺伝子を単離した結果、ROLは ta-siRNAの生成に必要な RNA-dependent RNA polymerase をコードしていることが判明しました。したがって、花の側生器官の発生の際にも、低分子RNAが重要な働きをしていることが示唆されます。

 

図1:葯を完全に欠失した rol変異体の雄ずい。


図2:雄ずいの向背軸極性決定に関するモデル。

研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/lab.html