論文紹介

第26回論文紹介(2016.1更新)

グループ名

形態統御学講座 脳機能構築学グループ

著者

坂内博子、丹羽史尋、Mark W Sherwood、Amulya N Shrivastava、有薗美沙、宮本章歳、杉浦琴美、Sabine Lévi、Antoine Triller、御子柴克彦

タイトル(英)
Bidirectional Control of Synaptic GABAAR Clustering by Glutamate and Calcium
タイトル(日)

グルタミン酸とカルシウムの使い分けによる正反対のGABA作動性シナプス制御

Cell Reports 13: 2768-80 (2015)

私たちの脳では、神経細胞がシナプスという構造を介して情報伝達を行っている。シナプスには、神経細胞を興奮させる「興奮性シナプス」と興奮を抑える「抑制性シナプス」が存在する。その興奮と抑制のバランスを保っているのが、抑制性シナプスで情報の受け取りを行っているタンパク質「GABAA受容体」を介した情報伝達である。この情報伝達のメカニズムを明らかにするため、我々は神経細胞膜上のGABAA受容体の動きを1分子レベルで追跡した。その結果、IP3受容体からのCa2+放出がGABAA受容体を動きにくくし、抑制性シナプス中でのGABAA受容体の安定性を高めることを発見した。また、GABAA受容体の安定性向上には、IP3受容体に加え「代謝型グルタミン酸受容体」と「リン酸化酵素プロテインキナーゼC」の活性化が必要だと分かった。グルタミン酸は、NMDA受容体を活性化して細胞内に大量のCa2+を流入させ、GABAA受容体を動きやすくすることが知られていた。しかし、今回解明したメカニズムでは、代謝型グルタミン酸とIP3受容体という全く異なる受容体を介して、同じグルタミン酸とCa2+というシグナル物質が逆にGABAA受容体を動きにくくして安定性を高めていた。本研究により、脳の抑制性神経伝達効率の増加と減少が、グルタミン酸とCa2+の使い分けによって選択的に引き起こされていることが明らかになった。

図1:グルタミン酸とCa2+によるGABAA受容体の側方拡散制御

恒常的なグルタミン酸による代謝型グルタミン酸の活性化に始まり、ホスホリパーゼC、IP3受容体からのCa2+放出によるリン酸化酵素プロテインキナーゼCの活性化がGABAA受容体のシナプス後膜への集積の維持に必要であることが明らかになった(図の左側)。これは興奮性シナプスからの大量のグルタミン酸放出によるNMDA受容体を介したCa2+流入と脱リン酸化酵素カルシニュリンの活性によるGABAA受容体のシナプス後膜からの散逸(図の右側)と拮抗する、グルタミン酸とCa2+によるGABAA受容体制御の新しいメカニズムである。


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