生体構築論講座 Laboratory of Biomolecular Architecture
分子神経生物学グループ Group of Molecular Neurobiology
- 教授
- 森 郁恵行動の基盤となる神経回路動態の分子機構と制御機構の解明
- 講師
- 中野 俊詩動物行動を司る神経回路の情報伝達・発生機構の解明
- 助教
- 塚田 祐基神経回路における動的な情報処理機構の解明
- 助教
- 松山 裕典(特任)神経系の動作原理とその数理
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わたしたち人間などの動物は、匂いや温度などの周りの環境を感じたり、記憶したりすることで、状況にあった行動をします。わたしたちの研究室では、C.エレガンスとよばれるちいさな線虫をつかって、動物がどうやって周りの環境を感じ、記憶し、そして行動するのかを解き明かそうとしています。動物は、環境情報を神経細胞「ニューロン」でうけとっています。ひとつひとつのニューロンをみると、細い突起をのばし、情報をつたえる電線のように複雑につながり合って「ニューロンの回路(神経回路)」をつくっています。神経回路の中では、たくさんの「遺伝子」がはたらいています。近年の遺伝子技術の発展のおかげで、「行動」という非常に複雑な現象も遺伝子レベルでみられるようになりました。
線虫が温度を記憶する行動を制御する遺伝子と神経回路
C.エレガンスをある一定温度(例:20℃)で飼ったあとに、温度の勾配のうえにおきますと、飼育されていた温度(例:20℃)へ移動します(図1左下)。わたしたちは以前、この温度走性に重要な神経回路を発見しました(図1左上)。また、近年、温度走性にかかわる遺伝子を次々と発見してきました。C.エレガンスが温度と餌情報を関連して記憶・学習していることもわかり、学習にかかわる遺伝子と神経回路もみつかってきました。今後も、私たちの研究から、行動を制御する部品である遺伝子の大多数が明らかになり、それらの遺伝子がどのニューロンで働いているかがわかってくるでしょう。
神経回路のダイナミックな活動をとらえる
行動をコントロールする部品である遺伝子1つ1つのはたらきがわかっても、それだけでは「動物は、なぜ、こういうときに、このように行動するのか」という問いに答えることはできません。なぜなら、それらの遺伝子が、生きた動物の中で、どのように働いているかがわからないからです。その問題の解決に向け、神経活動を可視化するイメ−ジング技術を用いて、研究を行っています。まず、温度を感じると考えられていたニューロンに温度変化の刺激を与えたところ、温度上昇時に、そのニューロンの活動が大きくなることがわかりました(図1右下)。また、温度走性の神経回路の活動状態を見たところ、神経回路の活動が学習時に大きく変化することも発見しました。
実験科学と理論科学による脳神経系の統合的理解
現在、コンピューター内で神経回路の活動と個体行動を再現しようとしています。この大きな目標を達成するために、行動の追尾システムを構築し、神経回路の活動が、どのように行動に反映されるのかを調べています(図1右上)。これらの研究から得られるパラメータを用いて行動の数理モデリングを行い、コンピューターシミュレーションによって、その数理モデルを検証しながら、いままでの分子生物学的アプローチだけでは理解できない新しい学問体系や、神経機能に関する新概念の構築を目指しています。
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